ハリー・ポッターと死の秘宝(第8章後半)

ハリーは列席者の中にエルファイス・ドージを見つけた。日韓予言者新聞に長文のダンブルドア追悼文を書いた人だ。その記事に添えられていた写真の記憶から、ドージだとわかったのだ。ハリーは本当の名前を名乗って、ドージに話しかけた。せっかく他人に化けているのに、こんな大勢の人がいるところで名乗るのは用心が足りないと思ったが、結果的には危険なことにならなかった。

ふたりの間でリータ・スキーターのインタビューが話題になった。第2章にあった新聞記事だ。「ダンブルドアは薄暗い過去を持っていた。グリンデルバルトとの決闘の伝説も怪しい」など、いろいろなことをリータは思わせぶりに語っていた。
リータの言うことは一言も信じるな、というドージに対して、「単にリータを信じないという選択だけで済むほど簡単なことではない」とハリーは心中で思っている。
このハリーの反応、わたしには腑に落ちない。リータが嘘と事実を巧みに組み合わせて記事を書くこと、そして記事の中の最もセンセーショナルな部分はリータの創作であることを、ハリーは誰よりも知っているはずなのだ。リータが書いたダンブルドアの記事に動揺するなんて情けないと思う。

リータの名前を聞きつけて、リュミエル大叔母が話に割り込んできた。リュミエルはリータのファンで、しかもダンブルドアの家族をよく知っていた。
アリアナはスクイブで、それを恥じた家族がアリアナを隠して育てたと、リュミエルは主張する。リュミエルの母がバチルダ・バグショットと親しかった。そして、バチルダダンブルドア一家と親しくつき合っている唯一の人物だった。
リュミエルの母とバチルダの会話を、まだ若かったリュミエルはたまたま聞いていた。アリアナの葬儀のとき、アルバスの弟アバーフォースが兄をなぐり、兄の鼻を折った。「賢者の石」で、ダンブルドアの鼻が折れ曲がっているという描写があったが、第一巻を書き始めた時すでにこの葬儀の場面が原作者の頭の中にあったのだろう。

リュミエルの話がどこまで事実なのかがわかるのは、28章でハリーたちがアバーフォースに会った時だ。
リータの発言だけでは読者に説得力がないことを、原作者も計算していたのだろう。リュミエルの話なら読者も信じざるを得ない。彼女ががわざわざ嘘をつく理由は考えにくいのだから。
そして、彼女が意図的に嘘を言ったわけではないけれども、思い違いはしていたことを、読者はのちに知ることになる。

ダンブルドアは若い時、家族といっしょにゴドリックの谷に住んでいた。そこは赤ん坊のハリーが両親といっしょに住んでいた場所だ。
ダンブルドアがそれを言わなかったことに、ハリーはショックを受ける。
「謎のプリンス」でハリーが受けた個人授業は、すべてがヴォルデモートとその分霊箱に関することだった。ダンブルドアの個人的な事情など一度もでてこない。だから、ポッター家とダンブルドア家が同じ土地にあったことをわざわざ言うはずもないのだが、ハリーはまるで裏切られたような気になる。

リュミエルの話の中でわたしが興味をひかれたのは、アリアナの葬儀での兄弟喧嘩のくだりだった。
「アルバスなら両手を後ろ手にしばられとっても、決闘でアバーフォースを打ち負かすことができただろうに」
リュミエルは、アルバスが弟の攻撃を防ごうともしなかったのはおかしいと言いたかったのだ。しかし読者としては、本人の魔法力さえ強ければ杖を振らずとも魔法で相手をやっつけることが可能だということが、ここでいちばんはっきりとわかる。

ハーマイオニーが踊り疲れてハリーのそばに座ったとき、テントを突き破ってオオヤマネコの守護霊が飛びこんできた。オオヤマネコはキングズリーの声で言った。
「魔法省は陥落した。スクリムジョールは死んだ。連中がそっちへ向かっている」