ハリー・ポッターと死の秘宝(第9章前半)

「客は蜘蛛の子を散らすように走り出し、大勢が姿くらましをした。隠れ穴の周囲に施されていた保護の呪文は破れていた」と書かれている。
姿くらましで出入りできないようになっていたはずなのに、それがすでに破られているということは、魔法省にいる死喰い人の誰か、たとえばシックネスあたりが保護を解除したということだろう。
「蜘蛛の子を散らす」は当然ながら日本語特有の表現で、原文は in all direction。欠点が多すぎる翻訳だが、ここはうまいと思う。

仮面をかぶったマント姿が、混乱した客の中に現れた。騎士団のメンバーがプロテゴの呪文をとなえるのがきこえた。ハーマイオニーは必死でロンを探した。
ロンが見つかった。ハリーとロンはハーマイオニーの手をとり、ハーマイオニーが姿くらましをした。

三人が着いたのはトテナム・コート通りだった。
おそらくイギリス人なら、通りの名前を聞いただけでロンドンだとわかるのだろう。日本人のわたしは、二階建てバスが通っているという描写から、ロンドンかなと思う。本当にロンドンだとわかったのは「ここから漏れ鍋までそう遠くない」というロンのせりふを読んでからだけど。
三人は、デヴォン州からロンドンまで一瞬で移動したのだ。

人通りの多い場所から人目のない横町へ移動した三人。ハーマイオニーは小さなビーズバッグから、ハリーの透明マントとロンのジーンズとTシャツを取り出した。マグルの町にいても目立たない服装に着替えるためだ。
ハーマイオニーは小さなバッグに魔法をかけ、その中に本や着替えを入れていた。あとでわかるが、怪我にそなえて傷薬も用意していた。
小さなバッグの中に、いろいろなものを入れる。「検知不可能拡大呪文」というらしい。こんな魔法があったらいいのにと思う。
映画「ファンタスティック・ビースト」に出てくるニュートのトランクも、同じ魔法を使っているのだろうか。それとも、また別の魔法なのだろうか。

いつでも三人で移動できるよう、ハーマイオニーはふだんから荷造りしていた。自分のためだけでなく、ハリーやロンの荷物まで入れていた。そして、姿くらましでふたりを連れて逃げた。さすがにハーマイオニーだ。ハリーはまだ姿あらわしの試験を受けていない。

三人は深夜営業の喫茶店に入った。ハリーは透明マントをかぶっているから、見かけは二人だ。マントの下のハリーは、ポリジュース薬の効き目が切れてきたことを感じていた。もし透明マントがなかったら、変身をマグルに見られてしまったかもしれない。

漏れ鍋へ行こうというロンに「できないわ。ヴォルデモートが魔法省をのっとったのよ」とハーマイオニーが反対する。
あとでわかるが、このせりふの「ヴォルデモート」が魔法省の「禁句検知」にひっかかったのだ。間をおかず、がっちりした労働者風の男が二人店に入ってきたが、それは死喰い人のソーフィン・ロウルとドロホフだった。

死喰い人二人とハリーたちの戦いが始まった。二対三という数と透明マントのおかげで、ハリーたちは死喰い人をなんとか失神させることができた。
死喰い人たちに見つかったことで、ハーマイオニーは少しパニックになっていた。
ハリーはハーマイオニーに「入り口に鍵をかけて」ロンに「明かりを消して」と指示をする。
ロンが「こいつら、殺すか?」と言い、ハーマイオニーが身震いする。ハリーは「殺したら、僕たちがここにいたことがはっきりしてしまう」と言い、記憶を消すことにする。
旅の間、だいたいはハーマイオニーが主導権をとるのだが、ここだけはハリーが冷静な判断をし、他のふたりに指示を出している。
殺さないという結論にロンはほっとした表情を見せる。自分が殺されかけていても、人を殺すのはやっぱり嫌なのだ。普通の人間なら、当然ではあるが。

記憶を消す呪文は、やっぱりハーマイオニーの役目になる。
「忘却呪文を使ったことはない。でも理論は知ってる」というハーマイオニー。呪文にはそれぞれ、理論があるのだ。その理論により、呪文の発音のしかたとか、杖の振り方などが決まるのかもしれない。
ハーマイオニーは、二人の死喰い人と喫茶店のウェイトレスのオブリビエイトをかけた。
ハーマイオニーはここで初めてオブリビエイトを使ったのだ。映画では両親にオブリビエイトを使っているが、原作の設定はそうじゃないのだ。
ハーマイオニーが忘却呪文をかけている間、ハリーとロンはカフェのこわれたテーブルやカップを片付けた。

三人は、グリモールド・プレイスに隠れることにした。