ハリー・ポッターと死の秘宝(第9章後半)

ハリーが隠れ場所としてグリモールド・プレイスを提案したとき、ロンもハーマイオニーも賛成できないという顔をした。スネイプが入れるからだ。今やスネイプも「守人」のひとりになっている。スネイプはヴォルデモートの部下でダンブルドアを殺した憎い敵というのが、この時点での三人の認識--いや、騎士団全体の認識なのだ。
しかしほかによい案もうかばず、「スネイプに会えたら、むしろそれが百年目さ」と言い張るハリーに根負けして承知した。もしスネイプと再会して一対一で戦ったら、とうていハリーに勝ち目はないのだが、今のハリーはそんな冷静は判断はできない。
そして三人は、襲われた喫茶店から、グリモールド・プレイスの屋敷の前に姿くらましで移動した。結局コーヒー代は払い損ねたらしい。

見張られていないか数歩ごとに確かめながらブラックの屋敷に近づき、ドアの前に立った。
ここで、ハリーが杖で玄関の戸を一回だけ叩くと、中で掛け金や鎖の音が聞こえてドアが開いたというのがおもしろい。忠誠の術で守られている建物は、守人を見分けて鍵が自動的に開くのだろうか。

玄関の中は記憶にあるとおりだったが、トロールの足の傘立てがひっくり返っていた。あとでわかるが、おそらくスネイプが来た時に倒れたのだろう。
しばらくためらったあと、三人は玄関から一歩中へ踏み出した。そのとたんに「セブルス・スネイプか?」というムーディの声が聞こえ、舌が丸まってしゃべれなくなった。ハーマイオニーによるとこれは「舌もつれの呪い」で、生前のムーディが仕掛けたものだった。
さらに進むと、今度は絨毯からダンブルドアの姿が立ち上がり、ハリーを指差した。「僕たちがあなたを殺したんじゃない!」とハリーが叫ぶと、その姿が破裂してもうもうと煙が立った。

この防御策、本物のスネイプにはどれだけ効果があったのだろう?
実際にスネイプは、ここへ来ている。もし33章のスネイプの記憶が時系列どおりなら、「七人のポッター作戦」の少しあとにスネイプはこの屋敷に来て、リリーの手紙を読んでいるのだ。
舌もつれの呪いも、ダンブルドアの姿もスネイプを止めることはなかっただろう。スネイプはダンブルドアに対してやましいことはないのだから。

ハーマイオニーは「ホメナム・レベリオ」の呪文をとなえた。何も起こらなかったため、この屋敷にはほかの人間はいないとハーマイオニーは判断したが、もし人がいたら何が起こるのだろう? それは書かれていない。
屋敷妖精はこの呪文の対象ではないのかな? どっちにしてもこの時期、クリーチャーはホグワーツで働いているけれど。

不意にハリーの傷跡が痛み出し、ハリーはヴォルデモートの怒りを感じた。ハリーを取り逃がしたことでヴォルデモートが怒っているのだ。
そこへ客間の窓を通り抜けて、イタチの守護霊が床に着地、アーサーの声で話した。「家族は無事。返事をよこすな。我々は見張られている」と。

傷の痛みがどんどん強くなった。ハリーは「トイレに行く」といって、バスルームへ向かった。ハリーはまたしてもヴォルデモートの心と同調した。拷問されているのはソーフィン・ロウルだった。喫茶店でハリーたちを襲った二人組のひとりだ。
ここでぞっとするのは、ヴォルデモートの「ドラコ、ロウルに我々の不興をもう一度思い知らせてやれ」というせりふだ。部下を拷問するのに、別の部下を使う。なんとも陰湿なやり方だ。リアル世界のいじめにもこういうことがあるそうだが。
ハリーも、このドラコの姿にショックを受けていた。前巻までは、ひたすらドラコ憎しのハリーだったけれど、今は少し同情する気持ちも生まれている。

バスルームの戸をたたく音がした。
「ハリー、歯ブラシは要る?ここにあるんだけど」
ハーマイオニーが来た目的は、単に歯ブラシではあるまい。ハリーの様子がおかしいこと、ハリーがなかなか戻ってこないことを心配して、歯ブラシを口実にしたのに違いない。
ハリーは平静をよそおってドアを開けた。