ハリー・ポッターと死の秘宝(第10章前半)

グリモールド・プレイスの客間で、三人は寝袋にくるまって一晩を過ごした。
寝袋はおそらく、ハーマイオニーが持っていたのだろう。あとでわかるが、ハーマイオニーはテントまでバッグに入れていたのだから。
眠っているハーマイオニーとロンが親しげに見えたのと(ハリーにそう思えただけかもしれないが)ダンブルドアに裏切られたような気持ちがよみがえったのとで、ハリーはじっとしていられなくなり、部屋の外へ出た。
思い立ったらすぐ行動に移す。目が覚めてハリーがいなかったらハーマイオニーがどれほど心配するかという想像はできない。ハリーはそういう男だと、これまでに何度も描写されている。

三階の、かってハリーとロンの部屋だったところをのぞいたあと、最上階へ来た。この「最上階」が四階なのか五階なのか、よくわからない。ここには二部屋があった。
ひとつはシリウスの部屋だった。
まわりの壁には、グリフィンドールのバナー、マグルのオートバイの写真、水着姿のマグルの女性の写真などがあった。生前のシリウスの「純血主義の家族をイライラさせる意図」を思わせる光景だった。
その中に唯一あった魔法界の写真は、ジェームズを含む四人組の写真だった。

三階の部屋もそうだったが、この部屋も荒らされたあとがあった。本や小物が床に散らばっている。
その中に、リリーがシリウスにあてた手紙があった。
これはハリーにとって、とてもうれしいことだっただろう。ハリーは母親を写真でしか知らない。母が命をかけて自分を守ってくれたことを、今は理解しているけれど、それでも母の体温を直接感じられる手書きの手紙を見つけたことは、今までに感じたことのない喜びだったに違いない。

その手紙から、いろいろなことがわかった。
ハリーの一歳の誕生日に、シリウスがおもちゃのほうきをプレゼントして、ハリーは毎日のようにそれに乗っていたこと。一年生のとき、いきなりほうきをあやつれたのは、一歳のときの記憶が無意識の底にあったからだ。
ペチュニアとリリーが、クリスマスの贈り物を交換していたこともわかる。
チルダ・バグショットと親しかったこと、彼女がハリーをかわいがってくれたこともわかる。ダンブルドアが透明マントを借りていったことも。
最後の部分は「だって信じられないのよ、ダンブルドアが」で終わっていた。続きを探したが見つからない。あとでわかるが、スネイプが二枚目だけを持ち去ったのだ。
それがわかるのは、33章になってからだ。

手紙の続きはなかったが、写真の切れ端が見つかった。男の子が、おもちゃのほうきに乗って写真から出たり入ったりしている。そばに大人の足だけが写っているが、父親のジェームズだろう。
ハリーはこれまでも、両親の写真を何度か見ているが、自分といっしょに写っているものはなかった。足だけであっても、うれしいに違いない。

ハリーを呼ぶハーマイオニーの声が聞こえ、ハリーは返事をした。
ハーマイオニーが「ロン、見つけたわ!」と下を向いて叫び、数階下からロンの返事が聞こえた。ふたりは手分けして屋敷内を探していたのだ。「ここに上がってくるまでにのぞいた部屋は、全部荒らされていた」というハーマイオニーにせりふから、ふたりがハリーを探して部屋をひとつひとつ調べたことがわかる。

ハーマイオニーにうながされて部屋を出るとき、ハリーは同じ階のもうひとつの部屋の表示を見た。ここへ来たときには暗くて読めなかったのだが、夜が明けて明るくなったので今は読めた。「レギュラス・アールクタス・ブラック」と書かれている。
ハーマイオニーに呼ばれて、ロンがやってきた。
こんな緊迫した場面なのに、「どうした? またおっきなクモだって言うなら…」というロンのせりふが笑わせる。
三人とも、偽ロケットに入っていた手紙の書名 R.A.B がシリウスの弟レギュラスだとわかった。

本物のロケットはこの部屋にあるのではないか。
ハーマイオニーがアロホモーラの呪文で鍵を開け、三人は部屋に入った。スリザリンのシンボルカラーで埋まった部屋で、壁にはヴォルデモートに関する新聞の切り抜きがいくつも貼られていた。
スリザリンのクィディッチチームの写真があった。
ここで「レギュラスはすぐに見分けがついた」と書かれているのはちょっと不思議だ。会ったこともない相手が、写真で「この人」だとわかるのだろうか? シリウスにかなり似ていたからだろうか。
また、「前列の真ん中に座っている。ここはシーカーの場所だ」というハリーのせりふも腑に落ちない。何十年も前から変わらず「シーカーの位置」が決まっているなんて不自然に思える。

三人は朝食をとることも忘れて、一時間以上探した。食いしん坊のロンまでが空腹を訴えなかったのは、奇跡に近い。
とうとう何も見つからず部屋を出たとき、「不死鳥の騎士団」の時期にこの屋敷の大掃除をした時のことをハーマイオニーが思い出した。
「不死鳥の騎士団」6章に、他の品々と並べて「誰も開けることができない重いロケット」と、さりげなく書かれていることば。あれが探し求めている分霊箱のひとつだったのだ。
その時の描写に「クリーチャーが何度か部屋に入ってきて、品物を腰布の中に入れて持ち去ろうとした」と書かれていた。あれは複数の巻をまたいだ伏線だったのだ。

クリーチャーがロケットを持っているかもしれない。
ハリーはクリーチャーの名を呼んだ。ホグワーツで働いているはずのクリーチャーだが、主人はハリーだから、呼ばれたら来なければならない。
ロケットの行方を知るためにクリーチャーを呼んだハリーだったが、それ以上のことをハリーたちは知ることになる。