ハリー・ポッターと死の秘宝(第11章前半)

Pottermore には、レギュラスの死が1980年頃だと書かれている。ハリーが生まれた年だ。
レギュラスがすぐに自殺行為に出ず、もう一年か二年様子を見ていたら、ヴォルデモートが凋落するのを見て、安全にダンブルドアと連絡をとれたのに。分霊箱のことをダンブルドアに教えることもできたはずなのに。
しかし、歴史の動きを予想するのはむずかしい。日本経済のバブルが崩壊する時期を、専門家である銀行経営者も予測できず、不良債権をかかえることになった。これはハリー・ポッターとも魔法とも無関係だけど。

クリーチャーは、数日たっても戻らなかった。
代わりに訪ねてきた人物がいる。ルーピンだった。
「わたしだ。ルーピンだ」という返事に、ハーマイオニーとロンはすぐ杖をおろしたが、ハリーは降ろさなかった。ルーピンは両手をあげたまま進み、自分について詳しく説明した。ハリーはそれでやっと杖をおろした。
ハーマイオニーよりもハリーの方が適切な対応をしたという珍しい場面だ。ハリーはそれだけの経験を積んでいる。クラウチJr.がムーディに化けたように、死喰い人がルーピンに化けている可能性もあるのだ。

ハリーたちとルーピンは、結婚式以後何があったかをお互いに話し合った。
ダンブルドアの死にかかわっている重要参考人としてハリーが指名手配されていることが、ここで初めてわかる。
魔法省はヴォルデモートに乗っ取られているが、彼は表にはでてこない。スクリムジョール大臣は拷問されて殺されたが、表向きは辞任となっている。今の魔法大臣はシックネスで、服従の呪文をかけられている。
ルーピンは今の魔法界について、「誰を信じてよいかわからないのに、お互いに本心を語り合う勇気はない」と言う。暗黒時代が戻ってきたのだ。
「マグル生まれ登録」の制度が始まった。マグル生まれの魔法使いは、魔法を誰かから盗んだとみなされる。
また、魔法使いのこどもは全員ホグワーツ入学が義務になった。今までは家で教育することも(アリアナのように)国外の魔法学校へ留学することもできた。それらを禁じることで、魔法省はイギリス全土の魔法使いを管理できるようになる。

ルーピンは、ハリーたちに同行したいと申し出る。ダンブルドアがハリーたちに何かの任務を与えたことはわかっている。その具体的な内容は知らないが、同行して三人を守ろうというのだ。
この時のルーピンの心理は、読んでいて痛いほどわかる。狼人間の自分が結婚などして幸せになっていいのかと、長い間迷い、やっと決心して結婚した。この巻の最初にダーズリー家へ来たときのルーピンは、幸せそのものだった。しかし妻が妊娠し、生まれるこどもが狼人間を父親に持つという事実に気づいた。それに、その子が生まれつきの狼人間になる可能性もあるのだ。自分と同じ運命を我が子に背負わせることになる。逃避したくなるのも無理はない。

ルーピンの申し出を、ハリーは冷たく拒絶する。
拒絶したこと自体は間違っていない。しかしルーピンを口汚く非難したことばは許せないと、わたしは思った。ハリーたちに同行したいと申し出るまでの、ルーピンの苦しみを考えるとたまらなくなる。
しかしハリーはもともと、他人の苦しみを思いやれるキャラじゃなかった。ハーマイオニーならできるだろうけれど。
ルーピンは気を悪くして出ていった。再会するのはその子が生まれたあと、貝殻の家にルーピンが訪ねてくる時だ。

ルーピンについては、疑問が最後まで残っている。
彼は毎月脱狼薬を飲まなければならない身だ。しかも、煎じるのが難しい薬だという。
ホグワーツの教師時代は、スネイプが作ってくれた。しかしその前やそのあとは、誰が薬を作ってくれているのだろう。ダンブルドアは薬をうまく作れる人物の手配もしてくれていたのだろうか。今はトンクス家の誰かが薬を煎じているのか?
ハリーたちに同行を申し出たということは、ルーピンが自分で薬を作れるようになったのだろうか?