ハリー・ポッターと死の秘宝(第12章前半)

本物のロケットを持っているのはアンブリッジだと判明したので、ハリーたちは魔法省に行ってロケットをうばうことを考え、その準備を始めた。
ただ、それがわかるのは、この章を数ページ読み進んでからだ。
小説の記述は、まず8月末のグリモールド・プレイスを外から見た状況から始まる。建物の前の広場に、長いマントを着た人物がひとりふたりとやってきて、11番地と13番地の境目を見ているというのだ。時々何かを見つけたように興奮するが、すぐ元の姿勢に戻った、と書かれている。

そして9月1日。いつもはひとりふたりだが、この日は6人のマント族がこの場所にいた。
つまり、彼らは死喰い人または魔法省の役人なのだ。魔法省は魔法使いの遺言書を調べる権限を持っているから、この屋敷をハリーが相続したことを把握している。ハリーは指名手配されているのだから、死喰い人だけでなく、魔法省の役人がここへ来ていても不思議はないのだ。

この日、ハリーは外から姿あらわしで屋敷へもとってきた。魔法省を偵察に行っていたのだ。
ハリーはどこかで入手した日刊予言者新聞をロンとハーマイオニーに見せた。そこには、スネイプがホグワーツの校長に就任したと書かれていた。
この記事は、最初に「死の秘宝」を読むときと、二度目に読み返したときとではまるで印象が違う。
スネイプの校長就任は、ダンブルドアが予測していたこと、いや、単なる予測でなく、望んでいたことだった。ヴォルデモートが魔法省を掌握したとき、ヴォルデモートは自分の意のままにできる校長を選ぶだろう。ヴォルデモートに選ばれながら生徒を守ることができるのは、スネイプだけなのだ。
スネイプはこれまでも、危険な二重スパイをやりとげてきた。しかしこれからは、ヴォルデモートに忠実と見せかけながら、実は生徒たちを守るという難しい任務にあたることになる。

しかしハリーたちにとっては、スネイプの就任はとんでもないことだった。ダンブルドアを無慈悲に殺した殺人犯が校長になるのだから。
ここでハーマイオニーが "Merlin's pants!" と叫び、これを直訳しているのは変だ。これまでロンが何度も"Merlin's beard!" とそれのパロティをしゃべっていて、それらは意訳していたのに、ここだけ直訳しても意味はないだろう。

それはそれとして、ここでハーマイオニーがフィニアス・ナイジェラスの肖像画をとりに行くのはさすがだと思う。スネイプがフィニアスを使ってこの屋敷をスパイさせるはずだと気づいたのだ。
ハーマイオニー肖像画を魔法のビーズバッグに入れた。バッグを閉めてしまえば、フィニアスにはバッグの内側しか見えないし、外の声も聞こえない。
そして、フィニアスの肖像画を入れたままバッグを持ち歩くという設定が、あとの展開に生きてくる。

この一ヶ月近く、三人はかわるがわる透明マントを来て魔法省を偵察した。そして情報交換を繰り返してきた。
魔法省の高官だけが、煙突飛行ネットワークで自宅と魔法省を使うことを許されている。また、姿あらわしは使われていない。つまり、高官以外の職員はいきなり魔法省内部に入ることはできない。また、中に入るには職員に支給されているチップを使う必要がある。また、アンブリッジの執務室が一階にあることもわかった。
ハリーは「明日決行しよう」と提案する。ハリーお得意の「直感」で、「実行に移すときが来た」と確信したのだ。

計画を話し合っているとき、いきなりハリーの額の傷に痛みが走った。ハリーの意識がヴォルデモートの意識とつなり、ハリーはヴォルデモートが見ているのと同じものを見て、おなじものを聞いている。
ハリーはトイレに逃げ込んだ。
ヴォルデモートは一軒の家を訪ね、ノックした。ドアが開いて女性が顔を出したが、こちらの顔を見て恐怖の表情になった。「グレゴロビッチに会いたい」と言うと、女性はドイツ語と思われることばで「知らない、その人はここにいない」と答えた。小さなこどもが二人走ってきた。女性はこどもをかばって両手を広げた。緑の閃光が走った。
ヴォルデモートはその女性を殺したのだろう。こどもたちはどうなったのか? ハリーは全員が殺されたと推測しているが。

ヴォルデモートがなぜグレゴロビッチの行方を追っているのか、ここではまだハリーにも読者にもわからない。ヴォルデモートは最強の杖と言われるニワトコの杖をグレゴロビッチが持っていると聞きつけ、その杖を探しにきたのだと、あとでわかる。

この章では、クリーチャーの変貌ぶりも描写されている。
クリーチャーは料理も上手だし、外から戻ってきたハリーに「お靴をお脱ぎください。それから夕食の前に手を洗ってください」とこまごまと世話を焼く。クラウチ家のウィンキーを思わせる忠実さだ。これが本来のクリーチャーの姿だったのだと、改めて思い知らされる。