ハリー・ポッターと死の秘宝(第12章後半)

この時期、三人はそれぞれ別の部屋で夜眠るようになっていた。ハリーはシリウスが使っていた部屋でベッドに入り、これまで打ち合わせをしていた魔法省侵入の計画を頭の中で復習した。しかし明かりを消すと、ヴォルデモートの心とつながった時に聞いたグレゴロビッチのことが蘇ってくるのだった。

翌朝、朝食もそこそこに三人は出発した。
はじめにハーマイオニーとロンが姿くらましをし、しばらくしてハーマイオニーがハリーを迎えに戻ってきた。透明マントがひとつしかないという理由もあったが、未だに姿くらましはハーマイオニーの方が上手だからでもあっただろう。何より、ハリーもロンも無免許なのだ。「謎のプリンス」22章で姿あらわしの試験があったが、ハーマイオニーは合格、ロンは惜しいところで不合格。ハリーは年齢制限があり受けられなかった。

三人は、魔法省職員が出入りする場所である、使われていない劇場の防火扉の前に来た。しばらく待つと、小柄な白髪の魔女が姿あらわしでやってきた。下調べのとおりだ。ハーマイオニーが失神呪文をかけ、その魔女の髪を抜いてポリジュース薬に加えた。ハーマイオニーが薬を飲んだ。魔女が持っていた身分証明書はマファルダ・ホップカーク。「秘密の部屋」と「不死鳥の騎士団」で名前が出てくるが、本人の登場はここが初めてだと思う。三人は気絶した彼女を建物の中に隠した。

次にやってきた小柄な魔法使いに、マファルダに成り済ましたハーマイオニーが「ゲーゲー・トローチ」を無理矢理なめさせ、病気にして家に帰した。この魔法使いはレッジ・カターモールという名で、ロンは彼のかばんを奪い取り、ハーマイオニーが抜いておいた彼の髪の毛で変身した。
次に来た魔法使いはハーマイオニーが鼻血ヌルヌル・ヌガーを使って帰し、ハリーはその男の黒い縮れた髪の毛をポリジュース薬に入れて変身した。この魔法使いはアルバート・ランコーンという大柄な男で、ハーマイオニーはちゃんと大きいサイズのローブを用意していた。
魔法界には「引き延ばし呪文」や「拡大呪文」があるはずだ。「炎のゴブレット」の偽ムーディの授業では、蜘蛛を拡大して教材にしたではないか。それなのに、衣類のサイズを変える魔法はないのは矛盾していると思う。

三人は近くの公衆トイレに行った。他の魔法使いとの会話から、公衆トイレを使っての出勤はごく最近決まったことだと推測できs瑠。「仕事に行くのにこんな方法を強制されるなんて!」とこぼしている魔法使いがいたからだ。
トイレの個室に、マファルダから取った金色のコインを差し込んで入る。そして自分を流す。流すと言っても水に濡れることはなく、ハリーは魔法省のアトリウムにある暖炉に出た。

三人の目的は、アンブリッジからロケットを取り戻すことだった。
しかし、魔法省の役人に化けている以上、話しかけられたり用を頼まれたりすることは避けられない。
透明マントや目くらまし術で姿を消して入れなかったのか。少なくともひとりは透明マントが使えたはずなのにと思うが、魔法省内ではそういう術が効かないようになっているのだろうか。

カターモールに化けたロンは、ヤックスリーに出会ってしまい、部屋に雨が降っているのを何とかしろと言われる。例によってハーマイオニーが、必要な呪文をロンに教える。
ヤックスリーのせりふから、カターモールの妻が「穢れた血」だと告発されていることがわかる。
二階の魔法法執行部で、ロンがエレベーターを降りた。
ハーマイオニーが、ロンについていくべきだったかと迷っていたが、一階に着いたとたんに息をのんだ。エレベーターの前に立っていた四人のうち、ひとりがまぎれもなくアンブリッジだったのだ。