ハリー・ポッターと死の秘宝(第22章)

三人はどこかの草地に着地した。「どこかの」と言っても、姿くらましの主導権をとったハーマイオニーには、どこだかわかっていただろう。ハリー視点で書かれているから、見知らぬ場所という表現になっているのだ。
ハリーが立ちあがったとき、ハーマイオニーはすでに周りに保護呪文をかけていた。
ハリーとロンは、ハーマイオニーがロンにマントを使わせた理由をここでやっと知る。自宅で寝込んでいるはずのロンがハリーといっしょにいるのをヴォルデモートが知ったら、ロンの家族がどんな目にあわされるかわからない。

落ち着いたところで、三人は死の秘宝の話を始めた。
ハーマイオニーは、死の秘宝を単なるおとぎ話としか受け取っていなかった。
しかし、話題がペベレル家に移ったとき、ハリーはペベレルの名をどこで聞いたかを思い出した。ダンブルドアの個人授業でゴーント家を見たとこのことだ。トムの祖父マールヴォロが手の指輪をオグデンに見せて「ペベレル家の紋章がついている」と言っていたのだ。ゴーントの先祖がペベレルであることも。
ハーマイオニーは本で調べて、ペベレルがかって純血の名門だったが今はその名が絶えていることも知っていた。
二人の知識を合わせると、マールヴォロが持っていた指輪が蘇りの石だったという可能性が出てきた。

「ハリーは、『秘宝』を信じることで、確実に武装されたように感じた。『秘宝』を所有すると考えただけで、守られるかのように感じた」と書かれている。まるで無関係かもしれないが、宝くじを買っただけで高額当選したかのような気分になる人がいるのを連想した。
分霊箱は秘宝にはかなわない、というハリーの想像も記述されている。そんな根拠はどこにもないのに。分霊箱と秘宝はそれぞれ無関係な魔法アイテムで、どちらかが勝つとか負けるとかいうものではないだろうに。
ただ、ハリーは秘宝に取り憑かれはじめている。ダンブルドアがそれを心配していたことが、33章でわかる。

ハリーは巾着に入れて持っていたリリーの手紙をロンとハーマイオニーに見せた。そこには、ダンブルドアがジェームズの透明マントを借りていたことが書かれている。「賢者の石」で、「マントがなくても透明になれる」と言っていたダンブルドアが、どうしてマントを持っていったのか。ダンブルドアはそれを死の秘宝と知って、調べたいと思ったのだ。
手紙を取り出すとき、はずみでスニッチが転がり出た。それを見たとたん、ハリーにひらめいたことがあった。この中に蘇りの石があるのではないか。ダンブルドアは単なる思い出のためにスニッチを遺贈するはずがない。火消しライターがロンを導いたように、このスニッチにも役割があるに違いない、そうハリーは思ったのだろう。ハーマイオニーのように理路整然と考える人間ではないが、この件に関するハリーのカンを説明すると、そういうことだ。

ヴォルデモートは、死の秘宝については知らないまま、最強の杖といわれるニワトコの杖を追っている。
ハリーはそう結論づけた。ハリーは四六時中ニワトコの杖のことを考えるようになり、分霊箱探しの熱意は薄れてしまった。

ロンは毎晩ラジオのダイヤルを回して試していたが、ある夜、とうとう「ポッターウォッチ」と呼ばれる放送を聞くことに成功した。
聞こえていたのはまずリー・ジョーダンの声だ。彼が司会役で、キングズリーとルーピンがレポーターとして話している。それぞれが偽名を使っているが、元の名前がすぐさま類推できる偽名になっているのが不自然だ。年少の読者にもわかりやすいようにという配慮だろうか。

この放送で、テッド・トンクス、ダーク・クレスウェル、それにゴブリンのゴルヌックが殺されたことがわかる。彼らといっしょに行動していたディーン・トーマスとグリップフックは難を逃れたが行方不明になっている。マルフォイ邸に捕らえられていることが次章でわかるが。
また、バチルダ・バグショットの遺体が見つかったことも報道される。「数ヶ月前にすでに死亡していたものと思われます」という説明から、ハリーとハーマイオニーが会ったバチルダが偽者だったことがはっきりする。

不穏な状況の中で、良心的な魔法使いがマグルたちを助けていることも語られる。二度目にここを読んだときは、33章のスネイプのせりふ「最近は、わたしが助けられなかった者だけです」が思い浮かぶ。
ここでキングズリーが言う「すべての人の命は同じ重さを持ちます」は、この作品の重要テーマのひとつだと思う。

ゼノフィリウス・ラブグッドが投獄されたと言うニュースに、「少なくとも生きてる!」とつぶやくロンのせりふがいい。ラブグッド家から逃れた直後には、さんざん彼の悪口を言っていたが。
ハグリッドが「ハリー・ポッター応援パーティ」を開こうとして襲われ、逃亡中というニュースもあった。そのあと、フレッドとジョージもラジオに登場した。

フレッドが「(例のあの人は)海外かもしれないし、そうじゃないかもしれない」と言ったとき、そのセリフに触発され、またニワトコの杖への執念がハリーを捕らえた。
放送が終わったとき、ハリーは「やつは海外だ! まだ杖を探しているんだよ。僕にはわかる」と叫んだ。そしてロンが止める間もなく「ヴォルデモートはニワトコの杖を追っているんだ!」と口にした。
ハリーが禁句を言ってしまったのでロンは「保護をかけ直さなくちゃ」と立ち上がったが、間に合わなかった。外で何人もの声が聞こえた。
そのひとりがハリーたちに向かって言った。「六本の杖がお前たちを狙っているぞ」