ハリー・ポッターと死の秘宝(第23章前半)

禁句の魔法で保護呪文が敗れ、暗闇の中で六人もの敵に囲まれたハリーたち。
この時も、とっさの行動をとったのはハーマイオニーだった。ハリーに杖を向け、無言呪文をかけた。白い光が炸裂し、ハリーの顔が痛みをともなって膨れ上がった。
六人の中にフェンリール・グレイバックがいることがわかった。「謎のプリンス」でビルに大怪我を負わせた狼人間だ。やりとりの中で、スカビオールの名前も出てくる。少なくともこのふたりは死喰い人だ。

捕まった三人は名前を聞かれた。三人はそれぞれ偽名を名乗る。ハリーはダドリーの名を、ロンは結婚式の時のハリーの仮の名前だったバーニー・ウィーズリーを、ハーマイオニーはパーシーのガールフレンドだったペネロピー・クリアウォーターを。

三人のほかに、もうひとり縛られているのがわかった。そのひとりが「ハリーか?」と小声で話しかけてきた。放送で逃亡中と報告されていたディーン・トーマスだった。
ハリーたちを捕らえたのは賞金稼ぎの人さらいで、ホグワーツに登校していない生徒を探して捕まえているのだと、ディーンが教えてくれた。

「ひと晩にしては悪くない上がりだ」とグレイバックが喜ぶ。「穢れた血がひとり、逃亡中の小鬼がひとり、学校を怠けているやつが三人」と言っている。まだ三人の正体がわかっていないのに「穢れた血」といっているのは誰のことだろう? ディーンをマグル生まれと認識しているのだろうか。

本筋と関係ないが、スカビオールのせりふで面白いと思った部分がある。
ハリーが寮を尋ねられて「スリザリン」と答えた時、スカビオールは「捕まったやつぁはみんな、そう言やぁいいと思っている。なのに、談話室がどこにあるか知ってるやつぁ、ひとりもいねえ」と言うのだ。
ホグワーツ校では、ほかの寮の位置を知らないのが普通なんだろうか。合言葉などで他の寮に入れない仕組みになっていることは理解できるが、他の寮の位置さえ知らないというのはあまりに不自然が気がする。しかし、これがホグワーツ校の基本設定なのだ。

ハリーの傷跡が急に痛み、ハリーの心がヴォルデモートの心とつながる。ハリーは必死で自分を取り戻そうとするが、ヴォルデモートが見ているものとハリーの周りの現実とが交互にハリーの心を占めていく。

ハリー自身のまわりでは、テントの中にあったグリフィンドールの剣が見つかってしまい、また眼鏡が近くに落ちていたこと、ハリーの額の傷が見えたことから、ハリーとハーマイオニーの正体がわかってしまう。人さらいたちは、グレイバックは、ハリーたちを「例のあの人」に直接渡す、あの人はマルフォイのところを基地にしていると聞いた、と言い出す。連中は五人の捕虜を引き連れて姿くらましをする。そしてマルフォイ邸の門の前で、グレイバックが「俺たちはポッターを捕まえた」と叫ぶ。
門が開き、砂利道を歩かされた一同をナルシッサが迎える。

ハリーと心が繋がったヴォルデモートは、黒い要塞に向かって進み、そこに着くと塔の最上階に向かって飛んだ。そこには骸骨のように痩せた老人がいた。
老人は笑って「来るだろうと思っていた。しかし、わたしがそれを持っていたことはない」と言う。ヴォルデモートは「嘘をつくな!」と怒鳴る。おそらく相手の心を読んだのだろう。

この老人は誰か、この時点でのハリーは知らない。しかし24章でドビーのための墓を掘っている時の描写に「ハリーにはもうわかっていた。ヴォルデモートが今夜どこに行っていたのか、ヌルメンガードのいちばん高い独房で、誰を、なぜ殺したのかも……」と書かれている。
いったいハリーは、いつどこで気づいたのか。ハリーがヌルメンガードという名前を知ったのは18章、ダンブルドアの伝記を前にハーマイオニーと話し合った時だ。読書家のハーマイオニーは、グリンデルバルトが敵対者を投獄するためにヌルメンガードを作り、ダンブルドアに負けた後は自分が入る羽目になったことを知っていた。

マルフォイ邸で、一同は屋内に入った。
ハリーたちの首実験をするためにドラコが呼ばれた。イースター休暇でホグワーツから戻ってきているという。この日は3月後半だろうか、4月前半だろうか。
ドラコはハリー見ても、ハーマイオニーを見ても「よくわからない」と言う。ハリーは顔が腫れていたからわからなくても無理はないが、ハーマイオニーは素顔のままだから、一目でわかったはず。それでもドラコはナルシッサに「この娘はグレンジャーでしょう」と言われて、言葉をにごす。
ハリーとハーマイオニーだと断言すれば、ふたりがヴォルデモートに惨殺されるのは目に見えている。ドラコは自分のひと言で人が殺されることには耐えられなかったのだ。

ナルシッサのせりふの中で「ロウルとドロホフがどうなったか、覚えていらっしゃるでしょう?」ということばがある。この作者は直接の描写はせずに、ラブグッドの家でハリーを取り逃がした死喰い人がひどい罰を受けたことを読者に知らせている。

そこへベラトリックスが現れた。
ベラトリックスは今にもヴォルデモートを呼ぼうとしたが、グリフィンドールの剣を見つけて「待て!」と叫んだ。「いま闇の帝王がいらっしゃれば、我々は全員死ぬ!」と。
ここでベラトリックスが、自分に反抗した人さらいたち四人を一瞬で抑える描写がある。彼女の強さを示す箇所のひとつだ。

ベラトリックスは、スネイプがグリンゴッツに送った剣がここにあることに驚いたのだ。レストレンジ家の金庫にあるはずの剣がここにあるということは、ベラトリックスがヴォルデモートから預かったカップも無事かどうかわからない。ベラトリックスはそう考えたのだが、この時点では読者にまだ説明されていない。

ベラトリックスはハリーとロンを地下牢に入れ、ハーマイオニーはここに残すようにとグレイバックに命じた。
ハリーとロンは縛られたまま、地下牢に放り込まれた。階上からハーマイオニーの悲鳴が聞こえてきた。