ハリー・ポッターと死の秘宝(第20章)

三人のテント生活がまた始まった。
ロンが戻った翌日の午後、ハリーとハーマイオニーは初めて「禁句」のことを知った。
「ヴォルデモート」という名前には魔法がかけられていて、誰かがその名を発音すると、ある種の魔法の乱れが起こり、その位置が検知できる。9章でドロホフとロウルに襲われたのは、ハーマイオニーがヴォルデモートの名前を口にしたためだったのだ。
ヴォルデモートをその名で呼ぶのは、騎士団の仲間のように、彼を恐れない者だけだ。キングズリーはこの禁句のせいで捕まりそうになり、現在逃亡中だという。これらのことを、ロンはビルから聞いた。

リータが書いたダンブルドアの伝記も、騎士団仲間では話題になっている。しかし、ハリーが受けたほどのショックを受けた人はいないようだ。大した問題じゃないと思うな、とロンは言う。
灯消しライターの機能に関連してロンは「ダンブルドアは、僕が君を見捨てて逃げ出すことを知っていたに違いないよ」と言ったが、それに対してハリーは「違うね」「ダンブルドアは、君が君がはじめからずっと戻りたいと思い続けるだろうって、わかっていたに違いないよ」と答える。このやりとり、なかなかいい。というより、ハリーとロンのやり取りの中で、読者をほっとさせるのはここぐらいだろう。

夜になってハーマイオニーが、ゼノフィリウス・ラブグッドを訪問しようと提案する。
ハーマイオニーの手には、リータが書いたダンブルドアの伝記があった。その中に載っている若きダンブルドアの手紙のコピーの署名に、ゼノフィリウスが首から下げていたペンダントと同じデザインのマークが描かれていた。クラムが「グリンデルバルトの印」と言っていたマークだ。
ゴドリックの墓場で、ハリーとハーマイオニーはペベレル家の墓石にこの印を見た。また、ダンブルドアハーマイオニーに遺贈したビードルの本にもこのマークが手書きされていた。
このマークの意味を知りたい。しかしダンブルドアにはもう聞けないし、グリンデルバルトが生きているかどうかさえわからない。意味を説明できるのはゼノフィリウスだけだ。
物知りのハーマイオニーがグリンデルバルトの生死を知らなかったのはちょっと不思議だが、彼が投獄されたのは国外なので、ハーマイオニーが読む新聞や本に消息が載っていなかったのだろう。

ラブグッド家の正確な場所はわからないが、ウィーズリー家に近いことと、ウィーズリー家から見てどの方向にあるかをロンが知っていた。結婚式にラブグッド父娘が出席していたのは、近所の住人としてだった。
三人は出かけた。「こんな近くまできて、家に帰らないのは変な感じだな」と言うロンの発言から、ロンが隠れ穴に戻っていなかったことをハリーとハーマイオニーが知る。ロンはビルとフラーの新居に居候していたのだ。
「ビルは、今までどんな時にも僕をきちんと扱ってくれた」というロンのせりふは、他の兄弟が自分をちゃんと扱ってくれなかったことを示している。そりが合わなかったパーシーだけではない。フレッドとジョージも、ロンに決して親切じゃなかった。

透明マントをかぶって歩いていた三人は、ルーナの家の前でマントを脱いだ。
ドアをノックすると、ゼノフィリウスが立っていた。少し様子がおかしかったが、ハリーたちはあまり考えずに家に入った。

階上の丸い部屋で、印刷機が動いていた。木製の旧式だと書かれている。魔法界は羊皮紙とか羽根ペンとか、中世の雰囲気がある世界だが、印刷機まで木製なのだ。
壁に取り付けられた大きなツノを、ゼノフィリウスは「しわしわ角スノーカック」の角だと主張するが、ハーマイオニーはエルンペントの角で、危険だと言う。
エルンペントがどんな動物か、ハリー・ポッターシリーズでは説明がない。読者がその姿を目にするのは「ファンタスティック・ビースト」の第一作によってだ。

ハリーは窓の外を見た。ウィーズリー家は見えないが、その方向を見てジニーのことを考えた。
ゼノフィリウスは、ルーナは今川へプリンピーを釣りに行っているという。プリンピーというのは魚らしい。「幻の動物とその生息地」にイラストが載っていた。

ゼノフィリウスがハーブティーを運んできた。ハリーたちはやっと本題に入ることができた。
「あなたが首から下げていた印のことですけれど」と問いかけるハリーに、ゼノフィリウスは「死の秘宝の印のことかね?」と返す。
死の秘宝という重要アイテムが、最終巻のそれも後半になって出てくるとは!