ハリー・ポッターと死の秘宝(第19章後半)

ハリーは服を着た。
ロンの方は服のまま飛び込んだので、服ごとずぶぬれだった。
あとで、ハーマイオニーに話すところでやっとわかるのだが、ロンはハリーが池に入っていくのを見た。しばらくハリーが上がって来るのを待ったが、何かがおかしいと気づいて池に走り、ハリーを救い出し、そのあとで剣も取り出したのだ。

ほかには誰も見なかったか、とハリーが訊ねる。近くの木のところで何かが動くのを見たような気はするとロンが答える。ハリーはそこへ走って行った。二本のナラの木が並んでいて、人が隠れるのにちょうどいい場所だった。その根本には雪がなく、足跡はわからなかった。そこだけ雪がなかったのは、スネイプが魔法で消したのかもしれない。
守護霊を出した人物と剣を池の中に置いた人物は同じだと、ハリーは推測する。それが誰だかはわからないが。スネイプだったと判明するのは33章になってからだ。

スネイプがグリンゴッツに送った剣は偽物だと、15章でグリップフックが言っていた。この剣は本物か偽物か、どっちだろうか。
「一つだけ、試す方法がある」とハリーは言うが、ハリーはこのとき、剣が本物であることを確信していたと思う。例の直感が働いたからでもあるが、ロケットがハリーを殺そうとしたこと自体が、剣が本物だという証拠になるのだ。
剣を手に入れたのはロンだから、ロンが分霊箱を破壊するべきだ、とハリーは主張した。この主張の根拠もよくわからないが、やっぱり直観だろうか。

ロンはかなりためらっていたが、ハリーにうながされ、とうとう承知した。
ハリーは蛇語で「開け」と言った。
ロケットのふたが二つに分かれて開き、中に黒い目玉が見えた。
その両眼が赤く光り、そこからハリーとハーマイオニーの姿が現れた。分霊箱のハリーは「君がいないほうがよかったのに」といい、分霊箱のハーマイオニーは「彼に比べれば、あなたはクズよ」とあざける。分霊箱から現れた幻は、ロンの心の底にある劣等感を増幅して、ホログラムのような映像にして見せたのだ。幻影のふたりは抱き合い、唇を合わせた。
「やるんだ、ロン!」本物のハリーが叫んだ。ロンは剣を振り下ろした。
幻影は消えた。

ハリーはロンの肩に手を置き、ロンの失踪後ハーマイオニーがずっと泣いていたことを告げた。
ハーマイオニーは妹みたいな人なんだ」「妹のような気持ちで愛しているし、ハーマイオニーの気持ちも同じだと思う」
このせりふ、なぜ sister を「妹」と訳したのだろう? これまでのハリーとハーマイオニーの関係を見て入れば、ハリーが彼女を「姉のような存在」と感じていたのは間違いないし、実際の年齢も彼女の方が一年近く年上なのに。

ロンとハリーは少し歩いて、テントを見つけた。
テントには保護魔法がかかっているはずだが、それを見つけることができたのは、ハリーが保護魔法をかけた本人だったからなのだろうか。

ハリーといっしょにテントにやってきたロンは、数週間ぶりにハーマイオニーと再会した。
ハーマイオニーが愛するロンにすがりついて泣きじゃくる……なんてことは起こらない。ハーマイオニーはそんな性格ではない。ロンの胸に飛び込んだ彼女は、ロンをののしりながらめったやたら殴った。その上杖で攻撃しようとしたので、ハリーはふたりの間を盾の呪文でさえぎった。

ハリーたちから離れたあと、ロンはすぐに戻ろうと思った。
しかし人さらいに捕まってしまい、すぐに戻れなかった。
人さらいたちがけんかを始めた隙をついて、ロンは相手の杖を奪って姿くらましで逃げた。テントの場所に戻ったときには、ハリーたちはもういなかった。

今夜、どうやってハリーを見つけたのか。これは大事なことだ、とハーマイオニーが言い出す。ロンが見つけたということは、死喰い人も見つけられるということではないか。
そこでロンがポケットから取り出したのが、ダンブルドアの遺言で譲られた灯消しライターだった。

クリスマスの朝、ポケットからハーマイオニーの声が聞こえた。灯消しライターから聞こえる声だった。それでライターをつけてみると、窓の外に青く丸い光が浮かんだ。
ロンは必要なものをリュックに詰めて外に出た。光がロンの胸に入ってきた。ロンは何をすればいいかをさとり、姿くらましをして山の斜面にでた。テントは見えなかったが、そこにハリーたちがいるという確信がもてた。一日中そこにいたが、ハリーたちに会い損ねたことをさとり、もう一度灯消しライターをつけて、青い光といっしょに姿くらましした。
そこで牝鹿の守護霊を見て、テントから出てきたハリーを見つけた。

牝鹿の守護霊の話が出たので、ハリーとロンはやっと剣を見つけたいきさつを話すことができた。
ただ、剣からハリーとハーマイオニーの幻影が出てきたことは省略した。いつかハーマイオニーに打ち合けるときがくるかもしれないが、それは今じゃない。
ハーマイオニーが落ち着くのを見定めて、ハリーは盾の呪文を解いた。

ロンは、人さらいから奪った杖をハリーに渡した。ハリーの杖が折れたことをロンはもちろん知らなかったが、ハリーにとってはありがたい偶然だった。