ハリー・ポッターと死の秘宝(第26章前半)

貝殻の家に着いてから、数週間がたっていた。

マントルピースの上に置かれた小瓶には、長くて硬い黒髪が一本--マルフォイの館で、ハーマイオニーの着ていたセーターからつまんだ毛だ--丸まって入っていた」と書かれている。
この髪の毛を使って、ハーマイオニーがベラトリックスに化けるという計画なのだ。
「秘密の部屋」で、ハーマイオニーは誤って猫の毛を使うという失敗をしている。しかし今回は大丈夫。この黒髪はベラトリックス以外のものではあり得ない。

ハーマイオニーは自分の杖を失ったので、ハリーがドラコから奪ってきたベラトリックスの杖を使うことにした。ベラトリックスのふりをするのに本人の杖を使うのは好都合だというハリーに、ハーマイオニーは「この杖がネビルの両親を苦しめ、シリウスを殺した」と嫌悪感を示した。
ハーマイオニーは自分の力でこの杖を奪ったわけではないので、杖の忠誠心を得られず、杖を使っていても違和感があったのだ。
ハリーも自分の杖が折れているので、ドラコが使っていたサンザシの杖を手にしていた。この杖はハリーが奪ったものなので、しっくり使えた。折れたヒイラギの杖ほどではなかったが。

ハリーたちはビルとフラーに、明日の早朝に出発すること、見送りは要らないということを言っておいた。もちろん、グリンゴッツ破りをするという具体的な計画は言っていない。
ハーマイオニーの手にはビーズバッグがあった。人さらいに捕まったとき、ハーマイオニーがそのバッグを自分が履いていたソックスに隠して守ったということが、ここでわかる。ハナハッカのエキスや着替えや本など、要りそうなものをいっぱいに詰めたバッグだが、魔法界は物理の法則が通用しない世界だから、バッグも中身も限りなく縮小できるらしい。

決行の日。「六時になって(中略)まだ薄暗い中で着替えをすませた」と書かれている。
今、いったい何月なのだろう。このあと物語は一気にホグワーツの戦いまで進んでいく。Pottermore によればホグワーツの戦いは5月2日。するとグリンゴッツ破りは4月の後半だろうか。イギリスの4月の六時はどんな明るさなのだろう。

ハリー、ロン、ハーマイオニー、グリップフックの四人はビルの家の庭で落ち合った。
ハーマイオニーはすでにベラトリックスに変身していた。ポリジュース薬は一時間しか持たないのに、ここで変身してしまって大丈夫なのかと思った。
「反吐が出そうな味だったわ。ガーディルートよりひどい」とハーマイオニーが言う。ガーディルートって何だっけ?と思ったが、ゼノフィリウスの家に行った時に出された飲み物だった。

ハーマイオニーは杖を出し、呪文を小声で唱えながら、ロンの容貌を変えた。
ハーマイオニーがベラトリックスに化け、別人になりすましたロンといっしょにグリンゴッツに行く。ハリーはグリップフックを背負って透明マントをかぶる。それが計画だった。

忠誠の呪文が切れる場所まで歩いて、そこで全員が姿くらましをした。
着いたのはチャリング・クロス通りで、「漏れ鍋」の前だった。
四人は「漏れ鍋」を通り過ぎ、ダイアゴン通りを歩いた。ここでまずいことに、死喰い人の一人、トラバースに会った。ハーマイオニーは何とか、ボロを出さずにベラトリックスになりすますことができた。この場面のハーマイオニーの受け答えは、実にみごとだと読んでいて思った。
彼もグリンゴッツに用があると言い、いっしょに歩き出した。これは困った状況で、ハリーたちは小声で相談することもできなかった。

一行はグリンゴッツに着いた。扉の両側に「潔白検査棒」を持った魔法使いが立っていた。このことはすでにグリップフックから聞いていたので、ハリーたちには心の準備があった。ハリーは錯乱の呪文をかけた。
呼び止められたハーマイオニーは、「たった今、済ませたではないか」と嘘をついた。錯乱の呪文のおかげでそれが通り、一行はホールまで入ることができた。
受付でも怪しまれたが、ハリーが服従の呪文をかけ、ベラトリックスだと信用させた。

それにしても、天下のグリンゴッツがどうしてこうも呪文に弱いのか。
錯乱の呪文や服従の呪文を使える魔法使いはたくさんいる。現にハリーが使ったではないか。こんな呪文で突破できるなんて不自然すぎる。
せっかくグリップフックがいるのだから、魔法使いの呪文では破れない守りをグリップフックの知識で破っていくというストーリーにできなかったのか。
このグリンゴッツ破りの展開は、かなり白ける。