はりー・ポッターと死の秘宝(第25章後半)

貝殻の家に着いたその日にでもグリップフックをミュリエル大おばの家に移すことができたのに、何日もこの家に留めているのは、ハリーがそう頼んだからだった。グリンゴッツに入るのに、グリップフックが必要だったからだ。
人間とは好みが違うグリップフックのために、フラーは別の食事を用意しなければならなかった。厄介をかけていることをハリーが謝ると、フラーは言った。
「あなたはわたしの妹の命を救いました。忘れません」
このせりふは腑に落ちない。
三校対抗試合の第二の課題の時のことを言っていることは間違いない。しかし、人質が安全であることを、ダンブルドアはその人質たちに説明したはずではないのか? 仮に妹のガブリエルが幼さゆえに理解できなかったとしても、試合が終わったあとで「実は人質は安全だった」と、誰もフラーに説明してあげなかったのか? マダム・マクシームは言わなかったのか?

また、この場面で「ガブリエルの命が本当に危なかったわけではないことを、フラーには言わないでおこうと思った」とハリーが考えるのも不愉快だ。フラーは本当のことを知る権利がある。また、本当のことを知ったとしても、ガブリエルを救おうとしたハリーの気持ちは同じだし、フラーの感謝の気持ちが消えることはないと思うのだが。

オリバンダーがミュリエル大おばの家に移動することになった。
フラーは、結婚式の時に返し損ねたゴブリン製のティアラを、オリバンダーに預けた。そのやりとりを見ていたグリップフックが、恨みがましい目つきをしていることにハリーは気づいた。

オリバンダーを送っていって戻ってきたビルの話から、ウィーズリーの家族がほぼ全員ミュリエルのところにいるのがわかる。両親、ジニー、フレッドとジョージ。
フレッドとジョージはミュリエルの家でまだ通信販売を続けていて、おばさんをカンカンに怒らせているという。そんなことをしていては、どんなきっかけでミュリエルの家が死喰い人に襲われるかもしれないのに、困った二人だ。

そこへルーピンがやってきた。妻のニンファドーラ・トンクスが男の子を生んだと知らせにきたのだ。
ここでルーピンが「テッドと名付けたんだ」と言った少しあとで「君が名付け親になってくれるか」とハリーに言うせりふがある。godfather を「後見人」とせずに「名付け親」と訳してきた矛盾が一気に吹き出たわけだが、なぜここだけでも「後見人」にしなかったのだろう。
何の説明もなしに「姉」を「妹」に変え、その上ペチュニアの方が年上とはっきりわかる部分を省くような翻訳者なのだ。途中で「名付け親」を「後見人」に変えるぐらいやっていいんじゃないのか?

台所でハリーとビルが二人きりになった機会をとらえて、ビルが言った。
「グリップフックと何か取引をしたなら、特に宝に関する取引なら、特別に用心する必要がある。ゴブリンの考え方は、ヒトと同じではない」
ゴブリンにとっては、どんな品でも、正当な持ち主はそれを作った者であり、買った者ではない。金を払った者に貸したと考える、というのだ。

ビルがグリンゴッツで働いていたことは「秘密の部屋」ですでに書かれている。その設定が、ここになって生きてくる。ハリーのまわりにいる人物で、グリンゴッツで長い間ゴブリンといっしょに働いた魔法使いはビルだけだ。ビルだけが、ハリーにこの忠告をすることができる。

また、ゴブリンと魔法使いとは別々の価値観を持ち、別々の社会を作っていることが、「死の秘宝」15章とこの章とではっきりする。
「アズカバンの囚人」で、脱獄犯シリウスの口座から大金が動いたのに、グリンゴッツの関係者が魔法省に通報しなかった理由が「死の秘宝」でやっと納得できた。