ハリー・ポッターと死の秘宝(第26章後半)

錯乱の呪文と服従の呪文で何とかその場を切り抜け、ハリーたち三人とグリップフックは銀行の内部に入ることができた。年老いたゴブリンのボグロットが、服従の呪文によって鳴子を手についてきた。グリップフックは職場を離れていたためトロッコを運転する権限を失っているので、ボグロットが運転した。トロッコは地下の深いところへ向かって走って行く。

ヘアピンカーブを曲がったとたん、目の前に滝が見えた。トロッコはその滝へ突っ込んだ。トロッコが傾き、全員が投げ出された。ハーマイオニーが何か叫んだ。ハリーはふわりと岩だらけの地面に着地した。ハーマイオニーはクッション呪文をかけたのだ。この呪文を自分だけでなくトロッコに乗っていた全員に効くようにするなんて、やはりハーマイオニーはすごい。いやそれ以前に、こんな状況の中でとっさにクッション呪文を思いつくこと自体がすごい。もしクッション呪文をかけなかったら、ハリーたちはどうなっていたのだろう。

この滝は「盗人落としの滝」と呼ばれていると、グリップフックが説明する。ベラトリックスが偽物とわかって、セキュリティ装置が起動したのだ。
ボグロットにかけた服従の呪文も解けてしまったので、ハリーはもう一度インペリオをかけ直した。
そこからは歩いて、レストレンジ家の金庫に向かった。

金庫の前には、ドラゴンがいた。鎖でつながれている。
長い間地下にいたせいでほとんど目が見えなくなっていた。しかも、鳴子を振ると、ドラゴンは痛い目にあうと思って後ずさりするというのだ。読んでいて「ひどい!」と思った。映画ではハーマイオニーが「虐待だわ」と言っているが、このせりふを小説でも言わせたかった。

グリップフックの助言でハリーはボグロットに再び服従の呪文をかけ、ボグロットは金庫の扉に自分の手のひらを押し付けた。金庫の扉が消えて、中が見えた。
「賢者の石」でハリーがハグリッドといっしょにグリンゴッツの金庫に入った時、グリップフックは「グリンゴッツのゴブリン以外の者がこれをやりますと、扉に吸い込まれて、中に閉じ込められてしまいます」と言っていた。

ハリーたちが中に入ると、また扉が閉まって真っ暗になった。杖明かりをつけて、三人はハッフルパフのカップを探した。ベラトリックスが金庫に入れたものがほんとうにハッフルパフのカップだったのかどうかはわからない。レイブンクローゆかりの何かの品かもしれない。
宝には「双子の呪文」と「燃焼の呪い」がかけられていることがわかった。何かに触れると宝が分裂して数が増え、触ると火傷をするのだ。「コピーには価値がない」とグリップフックが説明しているので、本物以外は一定時間がたつと消えるのだろう。しかしその前に、泥棒は押しつぶされてしまうという仕掛けなのだ。

ハリーたちはやっとカップを見つけた。レビコーパスの呪文で体を浮かせて、グリフィンドールの剣にカップを引っ掛けた時には、灼熱した宝物の山にみんながほとんど埋まっていた。
リベラコーパスの呪文で落下した時、剣がハリーの手を離れて飛んだ。グリップフックはその剣に飛びついた。ハリーはかろうじてカップの方をつかんだ。カップが熱くなり、いくつものコピーが流れ出ても、最初のカップは離さなかった。
その時扉が開き、ハリーたちは宝といっしょに流されるように外に出た。

まわりにはたくさんのゴブリンたちが集まっていた。
グリップフックは「泥棒!助けて!」と叫んでゴブリンたちの中に混じった。
ここでゴブリンたちがグリップフックをすぐに受け入れた理由は書かれていない。受付でハリーが服従の呪文や錯乱の呪文を使ったことから、グリップフックも意に反して服従させられていたと解釈されたのだろうか。

ハリーはとっさに思いつき、ドラゴンをつないでいる鎖をレラシオの呪文で離した。ハリーの指示でハーマイオニーとロンもドラゴンの背にのぼった時、ドラゴンは自由になったことに気づき、動き出した。
ドラゴンは炎を吐き、壁を吹き飛ばしたり爪で壊したりした。三人はデイフォディオの呪文ででドラゴンの破壊を手伝った。

ドラゴンはとうとう大広間に出た。目が見えなくても、新鮮な空気のある方向を嗅ぎ分けたドラゴンは入り口の扉を突き破り、外へ出ると空へ舞い上がった。
映画では、丸屋根を壊して飛び立つという設定になっている。確かに、その方が絵になる。

ずっと地下でつながれていて翼を動かせず、しかも視力を失っていたドラゴンが飛べるというのは生物学的におかしい。しかし、蛇が音声でコミュニケーションをする世界だから、生物学の知識を持ち出すのは野暮というわけだろう。