ハリー・ポッターと死の秘宝(第27章)

ドラゴンに乗って、グリンゴッツを無事脱出できた三人。
しかしドラゴンがどこに行くのかはわからない。飛び続けているうちに、日没になった。ドラゴンは高度を落とし始めた。湖を見つけてそこへ降りようとしているようだ。
ハリーの合図で、三人は湖へ飛び降りた。ドラゴンはさらに飛び続け、遠くの湖岸に着陸した。

ドラゴンが屋外へ出られたのも、三人が途中で振り落とされなかったのも、湖へ飛び込んだ三人がドラゴンに食べられなかったのも、すべて偶然による幸運だ。話ができすぎている感じは否めない。しかし児童文学としては、よくできた冒険譚と言えるだろう。
また、グリンゴッツに入ってから湖へ飛び込むまで、ハリーがほぼ主導権を取っていたことは注目していいだろう。「死の秘宝」での結婚式以来、リーダーはいつもほとんどハーマイオニーで、ハーマイオニーがいなかったらハリーは死んでいたかもと思う場面も何度かあった。しかしこのグリンゴッツ破りで、ハリーはやっと主人公の面目を保てたような気がする。

三人はドラゴンが着陸した岸と反対側へ泳ぎ、泥水をかき分けながら岸へ着いた。
ハリーは疲れ切っていたが、自分を励まして周りに保護呪文をかけた。ハーマイオニーはハナハッカのエキスを自分の体に塗り、ハリーにも渡した。三人とも、金庫の「燃焼の呪文」で顔にも腕にも火傷をしていたのだ。
ハーマイオニーはかぼちゃジュースと乾いたローブを三人分取り出した。例のビーズバッグに入れていたのだ。三人はそれぞれ着替えた。ハーマイオニーはおそらく下着の替えもバッグに入れていたのだろうと思うが、そこまで書かなくてもいいと原作者は思ったのだろう。

「座り込んで両手の皮が再生するのを見ながら、ロンがようやく口を開いた」と書かれている。
ハナハッカのエキスは、見ているうちに皮膚を再生させられるのだ。骨折をすぐ治せることといい、魔法界の医学はマグル界より進んでいるらしい。

分霊箱は新しくひとつを手に入れた。ハッフルパフのカップだ。
しかし、この分霊箱を破壊するための剣がなくなった。グリップフックの手に渡ったのだ。しかしこれは、グリップフックの方に理がある。金庫破りを手伝ったら剣をあげると約束したのだから。

ここでのハーマイオニーとロンの会話が面白い。
私たちが分霊箱のことを知っていることが例のあの人にわかってしまうだろう、とハーマイオニーが言うと、ロンは「奴らはあの人に怖くて言えないかも」と返す。いつも自分に都合のよいように物事を考えたがるロンの傾向がよくわかる。

ハリーの意識が、突然ヴォルデモートの意識につながった。ドビーが死んだときに克服したように見えたが、また以前と同じようなつながり方だ。
これはストーリーの都合上と言ってしまえばそれまでだが、ハリーがヴォルデモートの動向を知るためには便利な現象だと言える。意識がつながったことによって、ゴブリンが事件をヴォルデモートに報告したこと、激怒したヴォルデモートが怒り狂ってそばにいたゴブリンや魔法使いを殺したことがわかる。
「ベラトリックスとルシウスは、他の者を押しのけて扉へと走った」と書かれている。ベラトリックスさえも恐怖に支配されていること、死喰い人どうしには同志愛などないことがよくわかる。

ヴォルデモートは分霊箱が無事かどうかを考えた。その時ヴォルデモートの頭に浮かんだ場所が「湖、小屋、ホグワーツ」だった。
湖というのはダンブルドアとハリーが行った洞窟内の湖で、小屋というのはゴーント家のことだ。ヴォルデモートは、どちらに置いた分霊箱も無事なはずだと考えている。
そして、ナギニについてもヴォルデモートは考える。もう俺様の命令を実行させるのはやめ、俺様の庇護の元に置こうと。

この時点で、ハリーは(そして読者も)残りの分霊箱のありかをほぼ把握した。
日記は「秘密の部屋」でハリー自身が破壊した。それはヴォルデモートも知っている。
指輪はすでにダンブルドアが破壊した。ロケットはつい最近ロンが破壊した。ただしヴォルデモートは知らない。
4つ目の分霊箱であるハッフルパフのカップはハリーの手元にある。
残るは、ホグワーツのどこかに隠されている「何か」と、そしてナギニだ。

ヴォルデモートは、日記とカップ以外の分霊箱が無事かを確かめに行くことにした。部下を信用しない彼のことだから、ひとりで行動することになる。最初に行こうとしたのはゴーントの小屋だ。
ダンブルドアは、俺様の2番目の姓を知っている」と書かれているのを読んで、はてな?と思った。
原文は middle name だから「姓」ではないと思うのだが。

ハリーは、ヴォルデモートの意識を通じて知ったことを、ハーマイオニーとロンに話した。
ヴォルデモートはゴーントの小屋へ向かった。そこにもう指輪がないとわかったら、ホグワーツにある分霊箱を移動させてしまうだろう。すぐにホグワーツへ行こう、とハリーは提案する。
まずホグズミードに行こう。そこで学校へ行く方法を考えよう。これは無茶な提案に見えたが、結果的には正解だったことになる。

三人は透明マントをかぶって、ホグズミードへと姿くらましをした。