ハリー・ポッターと死の秘宝(第29章前半)

肖像画の奥のトンネルから現れたネビルは、衣服はボロボロで顔は傷だらけだった。
「君たちが来ることを信じてた!」とネビルは顔を輝かせて言った。そしてアバーフォースを見て「アブ、あと二人来るかもしれないよ」と言った。
「アブ」という略称で呼ぶところに、この何ヶ月かの間に築き上げたネビルとアバーフォースの信頼関係がわかる。二人というのは、ルーナとディーンのことだろう。夜鳴き呪文を避けて、ホッグズ・ヘッドの屋内に姿あらわしするという。

ネビルと三人はトンネルに入った。ランプが壁にかかっていて、道は平らで歩きやすい。忍びの地図にはなかった道だ。
ネビルによると、ハリーたちが知っていた外への抜け道はすべてふさがれたという。入り口には呪いがかけられ、出口には死喰い人とディメンターが待ち構えているという。この抜け道を全部見つけたのは誰だろう? 叫びの屋敷への抜け道は、スネイプもダンブルドアも知っている。では隻眼の魔女の像からハニー・デュークスへの抜け道は? こちらもダンブルドアはとっくに知っていてスネイプに教え、スネイプは自分で見つけたことにしてヴォルデモートに報告したのだろうか。

カロー兄妹は「闇の魔術に対する防衛術」「マグル学」をそれぞれ教えているという。アミカス・カローは罰則を受ける生徒を相手に磔の呪文を練習させている。アレクト・カローはマグルは低級な生き物だと教えている。
ネビルは彼らに反抗し、何度も体罰を受けた。しかしネビルは「あいつらに抵抗して誰かが立ち上がるのはいいことなんだ」と、確信を持って言う。それをハリーから学んだのだと。
あの、何をやるにもおどおどしていたネビルはもういない。いや、これがネビル本来の性格なのだろう。両親は病床で、祖母や親類からは過大な期待をされ、彼は萎縮してしまっていたのだ。

ネビルをおとなしくさせるために、死喰い人はネビルの祖母を襲って拉致しようとした。しかし襲ったドーリッシュは逆襲されて入院中。祖母は逃亡先から手紙をよこした。「ネビルを誇りに思う。それでこそ親に恥じない息子だ」と。
この祖母の態度はどうかと思う。親と同じように振る舞うことを要求し、それができないネビルを今まで否定し続けてきた。わたしなら、今更ほめられても不愉快なだけだろうと思うが、素直な性格のネビルは祖母の励ましを喜んでいる。

トンネルの終わりに扉があり、それを開けると広い部屋だった。ハリーたちは二十人ぐらいの生徒に取り囲まれ、抱きしめられた。
いたのはシェーマス・フィネガン、テリー・ブート、ラベンダー・ブラウン、アーニー・マクミラン、アンソニー・ゴールドスタイン、マイケル・コーナーの名前が書かれている。みな、ダンブルドア軍団の仲間だった生徒たちだ。

そして、ここは必要の部屋だった。ネビルがこの部屋に隠れていて空腹が我慢できなくなった時、ホッグズ・ヘッドへの通路が開いたという。
ネビルたちの抵抗運動の仲間がこの部屋を使うようになって、人数に応じてハンモックが増えたり、女生徒が加わると浴室ができたりした。

「アバーフォースが僕たちに、食事を提供してくれているんだ。なぜかこの『必要の部屋』は、それだけはしてくれない」
ネビルがそう言うと、ロンが「食料は『ガンプの元素変容の法則』の五つの例外の一つだからな」と受ける。このせりふは、15章でハーマイオニーが言ったことの受け売りだ。
しかし、あとの四つは何だろう。まず貨幣。それから生き物。魔法で杖から花や小鳥を出すことはできるが、それらは間もなく消えてしまうのではないか。それから布や皮革。布や革製品を魔法で作り出せるのなら、モリーはロンに古着のドレスを買う必要はないだろう。あとは… わからない。

そこにはラジオが置かれていた。ネビルたちはポッターウォッチを聞いていたのだ。
グリンゴッツ破りと、ドラゴンに乗っての逃走も報道されていたらしい。

その時、ハリーの傷跡が痛み、ハリーの心がまたヴォルデモートの心につながった。ヴォルデモートは荒れ果てた小屋の中にいた。足下の床下が剥ぎ取られ、穴のわきに黄金の箱が空っぽになって転がっていた。ヴォルデモートはそのとき、ゴーントの小屋にいたのだ。
ダンブルドアは2年前の夏に、ゴーントの小屋を訪れていた。ふだんのダンブルドアなら、指輪を掘り出したあとをそのままにしてはおくまい。ちゃんと床を元どおりにし、箱も持ち去ったはずだ。しかし彼はこのとき、衝動的に指輪をはめてしまってその呪いを受け、半死半生の状況だった。命からがらホグワーツへ逃げ帰るのがやっとで、小屋の床の後始末の余裕はなかったのだろう。

ホグワーツへ戻ってきてみんなに歓迎されたものの、次に何をやるのか、具体的なことはハリーにもわかっていなかった。ともかく、ヴォルデモートが分霊箱にした何かがこの城内にある。しかしそれをみんなに説明するのは難しい。
そこへルーナとディーンがやってきた。ネビルの伝言を受け取ったのだ。
続いて、思いがけずジニーとフレッド、ジョージ、リー・ジョーダンが現れた。次に現れたのはチョウ・チャンだった。

ディーンが自分の偽ガリオン金貨を見せて言う。
「伝言はこうだ。ハリーが戻った。俺たちは戦う!」
ハーマイオニーが考案したこの偽金貨は、日付を知らせるだけのものだったはずだ。もしかするとネビルたちは、ポケベルよろしく文字を数字に置き換えて連絡をとっていたのか? それとも、数字を短文に置き換える暗号をあらかじめ全員で決めていたのか?