ハリー・ポッターと死の秘宝(第28章前半)

26章から最後の36章までの時間の進み方がよくわからない。全部で2日間、あるいは3日間のできごとなのだろうか? 話が目まぐるしく進んで切れ目がない。まさにクライマックスの部分だ。

三人は透明マントをかぶって、姿あらわしでホグズミードに着いた。見覚えのある街並みが目に入った。
その瞬間、「ギャーッ」という悲鳴のような音が響き渡った。夜間外出禁止令が出ていて、誰かが家の外に出ると警報が鳴る仕組みだったのだ。

「三本の箒」の戸口が開き、十数人の死喰い人が躍り出た。彼らのせりふから、やって来たのがハリーだとすぐにばれたことがわかる。
そのうちのひとりが透明マントにアクシオをかけたが、マントは動かなかった。この世界の魔法には、必ず「上には上」がある。透明マントにアクシオは効かないのだ。ハリー自身にアクシオをかけないのは、この呪文が人間には効かないからだろう。

死喰い人がディメンターを呼び、ハリーはまわりに冷気を感じた。ハーマイオニーがハリーとロンの手をとって姿くらまししようとしたが、失敗した。「姿くらましはできなかった。死喰い人のかけた呪文はみごとに効いていた」とある。そういえば「不死鳥の騎士団」の魔法省の場面で、ダンブルドアが姿くらまし防止呪文を使っていた。

ディメンターを追い払うため、ハリーはやむなく守護霊を出した。
死喰い人たちが「奴だ。あいつの守護霊を見たぞ。牡鹿だ」と言っているので、ハリーの守護霊は死喰い人たちにもすでに知られていることがわかる。

近づいてくる死喰い人たちの足音を耳にしながら、どうしていいか迷っていると、狭い脇道に面した家の扉が開き、「ポッター、こっちへ」と声がした。「二階に行け」というその声にハリーは従った。
中に入って初めてわかったが、そこはホッグズ・ヘッドだった。
二階に上がった三人は、透明マントをかぶったまま窓の外を見た。

ハリーを追ってきた死喰い人たちに、ホッグズ・ヘッドのバーテンは、さっきの守護霊は自分が出したものだと言い張る。そして守護霊の山羊を出してみせる。牡鹿と山羊、よく見れば違うはずだが、守護霊はぼんやりした霧のような外見でしかも動くから、何とかごまかすことができた。
バーテンと死喰い人のやりとりから、この店では禁制品の取引がいつもやられていて、バーテンの口が固いので悪者たちは安心して取引ができるのだとわかる。

この小説では、本人が登場する前にまず名前だけが出てくることが多いのだが、アバーフォースの名前も「炎のゴブレット」ですでに出てくる。この時「山羊に不適切な呪文をかけた」とダンブルドアのせりふにあった。原作者は「死の秘宝」で山羊の守護霊が登場することを、第4巻ですでに考えていたのだろうか。

二階の部屋のマントルピースの上に、少女の絵があった。その前に、長方形の小さな鏡がおいてある。ハリーが持っているのと対になる鏡だ。
バーテンが入ってきた。
ハリーはバーテンの顔を注意深く見た。今、彼は眼鏡をかけている。アルバス・ダンブルドアと同じブルーの目が眼鏡の奥にあった。
今まで鏡の中に見ていたのはバーテンの目だった。そして、このバーテンがアルバス・ダンブルドアの弟アバーフォースであること、ドビーを送ってくれたのはまさにこのバーテンだったとハリーは気づいた。

鏡をどうして手に入れたのかというハリーの質問に「ダングから買った。一年ほど前だ」とアバーフォースは答えた。
ダングというのはマンダンガス のことだろう。シリウスの死後(あるいはそれより前?)マンダンガス が鏡をブラック亭から盗み出し、ホグズミードで売っていたのだ。「謎のプリンス」のホグズミードの場面で、マンダンガス とアバーフォースが会っているのをハリーたちは目撃している。その時マンダンガス はブラック家から盗んだ品物を持っていた。
アバーフォースはアルバスからこの鏡の機能を聞いていたから買ったという。アルバス・ダンブルドアは一方では秘密主義を貫きながら、一方ではこんな細かいことまでアバーフォースに知らせ、後を託していた。実に用意周到な男だ。

早朝に貝殻の家を出発してから、三人はかぼちゃジュースしか口にしていない。安全な場所と思われるところにきてホッとしたら、空腹に気づく。ここで「腹ペコだ」と言い出すのは、やはりロンだ。
アバーフォースは食べ物と飲み物を出してくれた。

夜が明けたら、ホグズミードを出て山に逃げるように、とアバーフォースは忠告する。
僕たちはアルバス・ダンブルドアの指示で動いている、ホグワーツに入らなければならない、というハリーが言うと、アバーフォースは「俺の兄の、賢い計画など忘れっちまえ」と言い出す。
兄の遺志を継いでハリーを何かと助けたのも、兄の計画を忘れて安全な場所に逃げろというのも、どちらもアバーフォースの本心なのだろうと思う。

アバーフォースは妹のアリアナのことを話し始める。
リータが書いた伝記では、アリアナはスクイブで、それを恥じた一家がアリアナの存在を隠し続けたことになっていた。様々な状況が、リータの本を傍証しているように見えた。しかしハリーたち三人は、ここでアバーフォースの口から直接事実を聞くことになる。