ハリー・ポッターと死の秘宝(第14章)

この章の章タイトルは The Thief(盗っ人)だ。読み始めにはマンダンガスのことかと思ったが、実はグレゴロビッチから杖を盗んだ男のことだった。その男を追うヴォルデモートの意識は、ときどきハリーの意識と重なる。それがグリンデルバルトだったことをハリーはいつ知ったのだろう? 23章、マルフォイの館にとらわれていたとき、ヴォルデモートがグリンデルバルトを殺したのをハリーは感じた。しかしそのときには「骸骨のような老人」としか知らないような記述だった。24章、貝殻の家に着いてドビーの墓を掘っているとき、ハリーはその老人がグリンデルバルトであり、杖が現時点でダンブルドアの墓にあることに気づいている。

話を戻して、魔法省からグリモールド・プレイスへ、そしてグリモールド・プレイスからどこかへ再び移動したハリーたち。二度目の姿くらましはハーマイオニーの判断によるものだった。
目を開けるとそこは知らない森の中だった。
ハーマイオニーは、クィディッチのワールドカップがあった森へふたりを連れてきたのだ。ワールドカップからはもう3年もたっているけれど、あまりマグルが来ないところとして思いついたのだろう。

ロンは大怪我をしていた。姿くらましで起こりうる「ばらけ」だった。左腕の肉がごっそりはがれ、左上半身が血まみれになっていた。
ハリーはハーマイオニーの指示で、ビーズバッグからハナハッカのエキスのびんを取り出した。ハーマイオニーはそのエキスをロンの腕にたらした。血が止まり、肉がむき出しになっている部分に新しい皮膚ができていた。さすが魔法界の薬だ。

ハーマイオニーがハリーに説明する。
魔法省の出口の公衆トイレから姿くらましするとき、追ってきたヤックスリーに足をつかまれた。グリモールド・プレイスに着いたとき、ヤックスリーもいっしょに来て、グリモールド・プレイスの扉が見えるところまで引き入れてしまった。これは守人であるハーマイオニーたちが、ヤックスリーに秘密を教えたことになる。ヤックスリーはおそらく、死喰い人をひきつれて屋敷に入り、家さがしをしているだろう。

気を失っていたロンが目を覚ました。
ロンが弱っていることもあり、三人はここを動かないことに決め、ハーマイオニーはまわりに保護呪文をかけた。
そして、ビーズバッグからテントを出した。猫のにおいがついているテントだった。ワールドカップのとき、アーサーが同僚のパーキンスから借りたテントを、ハーマイオニーに譲ってくれたのだ。パーキンスは腰痛がひどくて、テントを返すには及ばないと言ったらしい。腰痛を治す魔法はないのだろうか。
ワールドカップのとき、テントの中がフィッグばあさんの家と同じ構造で家具の配置も同じだという記述があった。パーキンスはフィッグばあさんと親類は知り合いで、彼女の家の室内をテントにコピーしたのだろう。

ここでハーマイオニーがヴォルデモートの名を言いかけ、ロンに止められる。ハーマイオニーは、大怪我をしているロンの神経にさわることを恐れてヴォルデモートの名前を口にしなくなり、ハリーもしぶしぶそれに従った。
三人は知らなかったが、ヴォルデモートはすでにこの名を禁句にして、名を口にする者がいればただちに検知するようにしていた。これからしばらく、ハリーもハーマイオニーもこの名前を口にするのをやめ、そのおかげで無事だったのだ。ロンは意図せずにあとのふたりを救ったことになる。

お茶を入れて落ち着いたところで、やっと三人はロケットを確認した。
ロケットを開けようとやってみたが、クリーチャーがどうしても開けられなかったものを、三人が開けられるわけがなかった。
三人は空腹に耐えながら眠った。

ハリーはまた、ヴォルデモートの意識と同調した。
ヴォルデモートは顎髭の豊かな白髪の男を魔法で逆さ吊りにして、「俺様にあれを渡せ、グレゴロビッチ」と責めていた。そしてヴォルデモートは、グレゴロビッチの記憶の中をさぐる。グレゴロビッチの工房にブロンドの若い男がいた。ブロンドの男は大喜びの表情を浮かべ、自分の杖から失神呪文を発射して窓から消えた。
詳しくは書かれていないが、このときブロンドの男の放った失神呪文はグレゴロビッチに当たったのだろう。単に盗んだだけでは、杖の忠誠心は移らないだろうから。
あの盗人は誰だ、と聞いたヴォルデモートに、グレゴロビッチは「知らない」と答えた。ほんとうに知らないような答え方だった。グリンデルバルトはのちにけっこう有名人(悪い意味で)になったはずだが、グレゴロビッチが彼の顔を知らなかったのはなぜだろう。

ヴォルデモートは何かを探している。その何かを求めて、グレゴロビッチに会いにいった。しかし求める物は手にはいらず、グレゴロビッチを殺してしまった。
ここで、ブロンドの若い男のことをハリーは「どこかで見たことがある」と感じている。しかし、どこでだろうか?