ハリー・ポッターと死の秘宝(第13章)

この章の魔法省の場面と、28章のグリンゴッツの場面は、個人的にあまり好きではない。エピソードが不自然すぎるだからだ。
4章の「七人のポッター作戦」や、20章のラブグッド家から逃れる場面などは、ハラハラドキドキで楽しめる。しかし職員に化けて魔法省に潜り込むというのは、あまりに非現実的すぎる。ニセ職員の三人とほかの職員とのやりとりも、実際にはもっとちぐはぐなものになるだろうし、三人が怪しまれずに動き回れるはずがない。魔法使いが他人に化けてマグルの中で行動するならともかく、魔法省では誰もが変身術の存在もポリジュース薬の効き目も知っているのだから、少しでも不自然に感じたら、偽物ではないかと疑われない方が変だ。
ついでに言うと、28章のグリンゴッツの場面では、ゴブリンが簡単に服従の呪文をかけられたことが不自然だ。いくらストーリーの都合とはいえ、ちょっとひどい。これについては、章が進んでからもう一度とりあげるつもりだが。

ところで、このときに使った「ゲーゲートローチ」や「鼻血ヌルヌルヌガー」を、ハリーたちはいつ手に入れたのだろうか。
「謎のプリンス」6章で、ハリーたちはフレッドとジョージの店を訪れた。このとき、ハリーは双子から「おとり爆弾」を受け取っているが、そのほかの商品についての記述はない。でもこのときにいたずら商品一式を双子からプレゼントされたのだと脳内補完しておこう。

さて、本題に戻って……
エレベーターの前にいたのはアンブリッジだった。アンブリッジの方から、マファルダの姿をしたハーマイオニーに声をかけた。「トラバースがあなたをよこしたのね」と。
死喰い人のトラバースも、今は魔法省にいるのだ。

アンブリッジとその場にいるほかの魔法使いに疑われないため、ランコーンの姿のハリーはここ一階で降り、ハーマイオニーはアンブリッジといっしょにさらに下へ。三人はこうしてバラバラになった。
ハリーは人目のないところで透明マントをかぶってアンブリッジの部屋へ向かった。

その部屋の扉には、ムーディの魔法の目がはめ込まれていた。
アンブリッジがどうやってムーディの目を手に入れたのかは書かれていない。しかし目がここにあるということは、死喰い人(イコール魔法省)がムーディの遺体を回収したことがわかる。彼の遺体はどんな扱いを受けたのだろう。
ハリーは魔法の目をドアからはずして、自分のポケットに入れた。

ハリーはアンブリッジの部屋の中を探し始めた。
ロケットを探すためにここへ来たはずなのに、本棚にあった「アルバス・ダンブルドアの真っ白な人生と真っ赤な嘘」を見つけ、それをめくり始めた。そんなことをしている場合ではないのに。
そこへシックネスが入ってきた。ハリーは急いで透明マントを被り直し、部屋を出た。

エレベーターで移動中、アーサーやパーシーに会った。ここでもハリーは、素に戻ってしまう行動をしている。その場その場の衝動で行動してしまうハリーの性格がよく表れている。
ハリーはやっと、ハーマイオニーがいるはずの法廷に向かった。その廊下にはディメンターがたくさんいた。
ディメンターがかもし出す冷たさに必死に耐えて、ハリーは法廷に入った。

「不死鳥の騎士団」で来たのとは別の、あれより小さい部屋だった。メアリー・カターモールというマグル生まれの女性が部屋に連れ込まれ、尋問が始まった。アンブリッジのかたわらで、マファルダの姿のハーマイオニーが記録係をつとめていた。
ここで、アンブリッジの守護霊が猫だとわかる。
マクゴナガルの守護霊も猫だが、これは偶然の一致だろう。世界中には何万人もの魔法使いがいるのだから、守護霊がかぶるのは当然だ。アンブリッジの猫好きは何度も描写されている。

尋問の途中、アンブリッジが姿勢を変えたときに胸に金色の物が光った。くだんのロケットだと、ハリーもハーマイオニーも気づく。
ハーマイオニーが「それ、きれいだわ。ドローレス」と話しかけた。
アンブリッジは「先祖代々に伝わる古い品よ」「Sの字はセルウィンのS」と説明する。堂々と嘘を言える厚顔さがよくわかる。
ここでまたハリーの悪い性格が出る。アンブリッジの嘘に逆上して、思わずアンブリッジに失神呪文をかけたのだ。続いてヤックスリーも倒した。

ディメンターがカターモール夫人に襲いかかろうとするのにハーマイオニーが気付き、ハリーに知らせる。やっと我に返ったハリーが、守護霊の呪文を出してディメンターを追い払う。
ハーマイオニーは、ジェミニオの呪文でロケットのコピーを作った。アンブリッジが目を覚ましたとき、ロケットがなくなっているのに気づかないようにだという。とっさに思いついたのかもしれないが、ハーマイオニーのことだから、アンブリッジからロケットを奪うことができたらコピーを作っておくということを元々考えていたのかもしれない。

語源的にジェミニオは「双子」を意味することばだと思うが、この呪文の効果はどのくらいの期間もつのだろうか。永久にというわけではないだろう。永久に効くのなら、何でも簡単にコピーを作れるからだ。コピーの方はおそらく、数時間あるいは数日で消えるのではないか。

廊下にたくさんいたディメンターは、ハリーとハーマイオニーの守護霊で追い払った。ここでハーマイオニーが守護霊の呪文を苦手とすることがハリーのせりふでわかるが、それでもハーマイオニーかわうその守護霊を出すことができた。
ハリーは尋問を待っていたマグルたちをつれてエレベーターへ向かった。そこへ、レッジ・カターモールの姿のロンが現れた。これで三人が合流できたわけだ。ロンは、魔法省が侵入者に気づいたことを知らせにきたのだ。

三人とマグル生まれたちは、八階のアトリウムについた。ランコーンの姿のハリーが、暖炉からマグル生まれの魔法使いたちを逃がした。
そのとき、本物のカターモールが現れた。やっと気分が治って、出勤してきたのだ。カターモール夫人は二人の夫を見て、当然ながら混乱した。
ロンはカターモール夫人の腕をつかみ、暖炉に入った。ハリーはハーマイオニーの手をとって暖炉に飛び込んだ。それぞれ、魔法省の入り口になっている公衆トイレに戻った。

隣のトイレに、ヤックスリーが追ってきた。ふたりのレッジを見たことから、ヤックスリーは真相に気づいていたのだ。不自然な行動をしているランコーンも偽物に違いないと。
「ハリーはハーマイオニーの手を握り、ロンの腕をつかんでその場で回転した」と書かれている。このとき、ハリーの主導で三人は姿くらましをしたのだ。ふたりの手が離れていく、何かがおかしいと感じたのは、ハーマイオニーの主導ではなかったからか。それとも、ヤックスリーがハーマイオニーの足をつかんでいたからだろうか。

ハリーの目に、グリモールド・プレイスの扉が見えた。しかしここで悲鳴が聞こえ、紫の閃光が走った。
ハーマイオニーの手が強くハリーの手を握り、さらに姿くらましが始まった。
紫の閃光は、ハーマイオニーが放った引き離しの呪文によるものだったのだろう。