ハリー・ポッターと死の秘宝(第16章前半)

あとでわかることだが、ロンはテントを出ていったあと、すぐに戻りたいと思った。しかし、人さらいにつかまり、何とか逃げてハリーたちを追ったが、ハーマイオニーの保護呪文をかけられたテントを見つけることができなかった。ではどこにいたのか? 隠れ穴へは帰らずに、ビルとフラーの家にいたということが、20章になってからわかる。

話は戻って、ロンが離脱した直後の朝。ハリーとハーマイオニーは黙って朝食をとり、いつもよりずっとぐずぐずと移動のしたくをした。次の土地へ着いたとき、ハーマイオニーは座り込んで泣いた。
いつもはハーマイオニーがほどこす保護呪文を、今日はハリーがかけた。

それから何日も、ハリーとハーマイオニーはほとんど無言で過ごした。
ハリーは忍びの地図を何度も取り出して見つめた。最初はロンの名前がホグワーツに現れるかどうかを見るためだったが、そのうち、ジニーの名前を眺めるためだけに見るようになった。
ハーマイオニーはビーズバッグからフィニアス・ナイジェラスの肖像画を出して椅子にたてかけた。フィニアスは、断片的にだがホグワーツの校長室の様子を話してくれることもあった。

「実際に、フィニアス・ナイジェラスが何気なくハリーとハーマイオニーの居場所に関する誘導尋問をはさむことで…」と書かれている。
ハリーたちの居場所を、フィニアスがなぜ知りたかったのか。当然ながらスネイプの指示だろう。歴代校長の肖像画は、現校長の指示に従うことが義務づけられているのだ。しかしこのせりふの印象は、最初に読んだときと、結末を知ってから読み返すときとでは大きく印象が違う。

ふたりは今までどおり一か所には留まらず、安全のためにイギリス中をあちこち渡り歩いた。
ハーマイオニーダンブルドアに遺贈された「吟遊詩人ビードルの物語」を何度も開けて読んでいたが、クリスマスが近づいたある日、ハーマイオニーはその本をハリーに示して「この印を見て」と言った。そこには、結婚式のときにルーナの父が首から下げていたペンダントと同じ図柄が描かれていた。
あのマークについて、ビクトール・クラムは「グリンデルバルトの印だ」「ダームストラング校の壁にグリンデルバルトが刻んだ」と言っていた。ハリーはそのことをハーマイオニーに話す。
グリンデルバルトの印だというのは誤解だったが、それほどこのマークが魔法界で知られていなかったことになる。

ハリーはこれまでずっと考えていたことをハーマイオニーに提案する。ゴドリックの谷に行きたいという気持ちだ。
意外なことに、ハーマイオニーも同じ考えだった。
10章、まだグリモールド・プレイスにいたとき、ゴドリックの谷に気持ちが向いているハリーに、ハーマイオニーは反対意見を述べていた。ゴドリックの谷はハリーが両親が住んでいた土地だから、それだけに危険だと言っていたのだ。
しかし今となっては、ゴドリックの谷へ一度行ってみるべきだと、ハーマイオニーも考えるようになっていた。

グリフィンドールの谷は、ゴドリック・グリフィンドールの出身地なのでこう名付けられた。
そこにバチルダ・バグショットが住んでいることを、ハリーは結婚式の時にミュリエル大叔母から聞いている。
ダンブルドアがバチルダに剣を預けたかもしれない、とハーマイオニーは気づく。
高齢のバチルダにそんな貴重なものを託したかどうか、疑問を持たないでもないハリーではあったが、ほかにあてもないので、ふたりはゴドリックの谷へ行くことにした。

このときハーマイオニーが見せた『魔法史』の教科書に書かれていた記述がおもしろい。
コーンウォール州のティンワース、ヨークシャー州のアッパー・フラグリー、南部海岸沿いのオッタリー・セント・キャッチポールなどが、魔法使いが住む集落としてよく知られている」
オッタリー・セント・キャッチポールは、ルーナの家やロンの家があるところだ。それに「呪いの子」に登場する地名でもある。魔法使いがかたまって住んでいる土地なのだ。