ハリー・ポッターと死の秘宝(第16章後半)

ハーマイオニーは、思い立ったらすぐにそれを実行に移すというタイプではない。
「炎のゴブレット」でハリーを手伝ったのも、「不死鳥の騎士団」でDAを提案したのも、しっかり考えた上でのことだろう。
今度も、ゴドリックの谷へ行こうと思いついてから、「透明マントを着たままで姿くらましする練習がもっと必要だ」「ポリジュース薬で他人に化けよう」と考えをめぐらしていた。何しろ、ヴォルデモートが待ち構えている可能性が高い場所へ行くのだ。
一方ハリーの方は、自分が生まれた場所、家族といっしょに育った場所へ行くという感慨にとらわれていて、翌日にでも出発したかった。気持ちはわかるが、やはりハリーは考えが浅い。

姿くらましの練習をし、通りがかりのマグルの髪の毛を手に入れ、1週間後に準備が整った。
ふたりは日暮れ近くなってからポリジュース薬を飲み、ハリーは禿げかかった中年男に、ハーマイオニーは小柄なその妻に変身した。そして姿くらましで、ゴドリックの谷の雪深い小道に移動した。
姿くらましというのは、行き先の地点を直接知らなくてもできるものらしい。
それにしても、ゴドリックの谷はイギリス国内でも南西部にあるはずだ。「賢者の石」1章でハグリッドが、赤ん坊のハリーを運ぶときにブリストルの上空を飛んだと言っていたのだから。イギリスの中では暖かい方ではないかと思うのだが、緯度を考えれば、クリスマスの時期に雪が降ることは不自然じゃない。

雪が積もっているということは、用心深いハーマイオニーにも意外なことだった。透明マントをかぶっていても、足跡が残ってしまう。ふたりは仕方なくマントを脱いだ。

墓地の近くに、戦争記念碑があった。
ふたりが近づくと、戦争記念碑が姿を変えた。ハリーの両親と一歳のハリーの像になったのだ。魔法使いにはそう見えるようになっているらしい。離れると、像はまた戦争記念碑に戻った。
墓地にはダンブルドア家の墓があった。ケンドラとアリアナの名前が刻まれていた。
ダンブルドアがゴドリックの谷と自分たちとのつながりを何も話してくれなかったことを、ハリーは恨めしく思った。ダンブルドアにとっては思い出したくない土地だったと、あとでわかるのだが。

ハーマイオニーは墓石のひとつに、あの「グリンデルバルトの印」を見つけた。「イグノタス」と読める名前が刻まれているのをハリーは見た。「イグノタス・ペレベル」という名をハーマイオニーは読み取っていたが、ハリー視点で書かれている物語なので、21章まで読者には明かされない。

ハリーはハーマイオニーから少し離れて両親の墓を探していたが、先に見つけたのはハーマイオニーだった。
白い大理石の墓に両親の名前と、それぞれの生没年が書かれていた。
ハリーの誕生日は「賢者の石」に明記されていたし、ハリーの生年も「秘密の部屋」で判明するニックの没年から推定できる。しかし両親の生没年月日は、ここで初めてはっきりする。
墓石の「いや果ての敵なる死もまた滅ぼされん」は、新約聖書の「コリントの信徒への第一の手紙」15章の「最後の敵として滅ぼされるのは死である」の引用と思う。
魔法界には宗教は存在しないと思われる。クリスマス行事は、キリストのキも出てこないただのイベントだ。それなのに墓石に聖書の言葉が刻まれているのはどういうわけなんだろう。

父母が敵と戦って死んだという事実を知って6年半。ハリーは初めて両親の墓に詣でることができ、感情が高ぶって涙を流していた。何か手向けるものを持ってくればよかったというハリーの気持ちを汲んで、ハーマイオニーは杖で花輪を作り出した。ハリーはそれを取って墓に供えた。
せっかくマグルに化けているのに、そんな目立つことをしてよかったのかな? 慎重なハーマイオニーには似合わない振る舞いだ。