ハリー・ポッターと死の秘宝(第17章前半)

ふたりは墓場の出口に向かった。マグルの姿にはなっていたが、念のため透明マントをかぶった。
少し歩いたところで、ハリーは壊された家を見つけた。それがポッター家だった。
ハリーが門に触ると、木の掲示板が地面からせり上がってきた。ここがポッター家であることを記し、「マグルの目に見えないこの家は(中略)廃墟のまま保存されている」と書かれていた。
掲示板には、ハリーに対する励ましの落書きがたくさん書かれていた。「掲示の上に書いちゃいけないのに!」というせりふはいかにも真面目なハーマイオニーらしいが、ハリーはその落書きを喜んでいる。

前章の墓石に刻まれたことばにしろ、この立て札の説明文にしろ、原作本には地の文として書かれているだけだ。イラストなどない。
翻訳者の趣味で原作のイメージを勝手に変えないで欲しい!!

魔法使いらしい老女が、こちらに向かって歩いてきた。マグルには見えないこの家を見つめている。それだけでなく、透明マントをかぶっているはずのハリーたちに気づいている気配がある。
しかも老女は、ハリーたちに向かって手招きをした。
この老女、実はナギニだったが、どうして透明マントを見透かしたのだろう。これまでに出てきた「透明マントを見透かす手段」は、ムーディの魔法の目だけだった。しかしムーディの目で見透せたのなら、ほかにも見透かす方法はあるはずだ。ナギニの目も同じ機能を持っているのかもしれない。

「あなたはバチルダですか?」
ハリーの質問に老女はうなずき、さらに手招きした。
魔女は何軒かの家の前を通り過ぎて、次の家の門へ入り、戸口の鍵をあけた。
何だかおかしい、とハーマイオニーは感じた。隣の部屋からバチルダが「おいで!」と呼んだ。
この「おいで」は、原作では他の部分と同じフォントが使われている。しかし日本語訳(ハードカバーしか見ていないが)では蛇語を示すフォントが使われていて、あっさりネタバレしている。「ハーマイオニーは飛び上がって、ハリーの腕にすがった」という記述の理由は、後でわかる方が面白いのに。

チルダがろうそくに火をつけようとしてうまくいかないので、ハリーがマッチを引き取った。魔法使いなら、杖の一振りで火をつけられるはずなのだが。ハリーはバチルダが老いたせいだと思った。

ろうそくが置かれた整理ダンスの上に、写真が何枚かあった。そのひとつに、ハリーが知っている顔が写っていた。と言っても、ハリーが直接会った人物ではなく、ヴォルデモートの心を通して見た、グレゴロビッチの記憶の中の人物だ。
グレゴロビッチから何かを盗んだ、若い男だった。ヴォルデモートが欲しがっている何かを。
「この人は誰ですか?」とハリーはバチルダに聞いたが、バチルダは答えない。
ハリーはその写真を内ポケットに入れた。おいおい、人の写真を勝手にとっていいのか?と思ったが、今のハリーの立場ならしかたがないか。

チルダは手まねで、ハリーだけが二階に来るようにと指示し、ハーマイオニーがついてくるのを拒否した。
そして二階で、バチルダは蛇に変身した。ハリーは噛みつかれ、ハリーの体に蛇が巻きついた。
ハーマイオニーが気づいて、蛇を攻撃した。ハリーの傷跡が激しく痛み、ヴォルデモートが歓喜の叫びをあげてやってくるのをハリーは感じた。
ハーマイオニーがコンフリンゴの呪文をかけ、建物が爆発した。
ヴォルデモートはすぐ近くまで来ている。ハリーはハーマイオニーの手をつかんで、姿くらましした。

その瞬間、再びハリーの意識とヴォルデモートの意識が繋がった。ヴォルデモートの青白い両手が窓枠を掴んでいるのが見え、禿げた男と小柄な女が回転して消えるのが見えた。
そして、ハリーはヴォルデモートの回想に入り込んでいた。
その回想は、16年前のハロウィン、ヴォルデモートがポッター夫妻を襲った夜のことだった。

その夜の光景がヴォルデモートの意識の中で、つまりハリーの意識の中で回想される。
杖も持たずに玄関に出て、死の呪文を浴びるジェームズ。ハリーを抱いて二階へ駆け上がり、机や椅子でバリケードを作るリリー。ヴォルデモートは杖の一振りでそれをどけ、リリーの前に立つ。リリーはベビーベッドにハリーをおろし、その前に両手を広げて立ちふさがる。このときヴォルデモートが「どけ」とリリーに言ったのは、リリーは助けて欲しいとスネイプに頼まれていたからだろうか。
「ハリーだけは助けて。わたしはどうなってもかまわない」と哀願するリリー。リリーを殺し、ハリーにアバダケダブラをかけたとき、ヴォルデモートは「無」になった、と書かれている。いったいどういう感覚なのか、この表現ではわからない。

ふと下を見ると、写真立てが床に落ちている。グレゴロビッチの記憶の中に会った泥棒だ。
その写真は、ハリーが落としたものだった。