ハリー・ポッターと賢者の石 第9章

どの章も中身が濃いと思わせるこの作品だが、この9章は特に内容が詰まっている気がする。
まず、ほうきを使っての飛行訓練。そこでハプニングが起こり、フーチ先生が席をはずす。先生の留守をよいことにマルフォイがハリーを挑発、それがきっかけでハリーの才能がマクゴナガルの目に留まる。
夜、マルフォイに再び挑発されたハリーとロンは、決闘のため夜中に寮をでる。ハーマイオニーとネビルも巻き込まれる。フィルチから逃げ回っているうち、三頭犬が守る隠し扉に出くわす。

この章の最初の寮の場面で、ディーン・トーマスが登場する。サッカーが好きという記述があるので、マグル界で育った子だとわかる。彼は組み分け儀式の時に名前が出ていない。おそらくリサ・ターピンの前だったのだろう。アルファベット順では Turpin より Thomas の方が先だから。
第7章の終わりに、ハリーの部屋にはベッドが5つという記述があった。その時点でグリフィンドールに組み分けされた一年生の男子で名前がわかっていたのは、ハリー、ロン、ネビル、シェーマスの4人だった。5人目がディーンというわけだ。

飛行訓練の授業の場面はおもしろい。ほうきの上に腕を出して「上がれ」というのだが、ほうきが上がる生徒と上がらない生徒がいる。ハーマイオニーがほうきをうまく扱えない描写があり、他の授業で優秀な彼女も万能選手とは言えないことがわかる。乗り手が怖がっているとほうきにそれがわかる、というハリーの解釈はたぶん当たっているのだろう。第12章に出てくるチェスの駒と同じだ。

マルフォイの挑発で許可なく飛んでいるところをマクゴナガルに目撃され、一人だけ呼ばれる。ハリーも読者も、罰を受けると想像するのだが、実はハリーが玉をキャッチする腕前を見ておどろいたマクゴナガルが、クィディッチ選手にするつもりで、キャプテンのウッドに紹介したのだった。この時、父親もかって選手だったとハリーは知る。父親のポジションは作品中に出てこないが、スコラスティック社が行ったインタビューで原作者が「チェイサーだった」と発言している。(2000年10月16日)
ところで、マクゴナガルが「初めてなんでしょう?ほうきに乗ったのは」と聞き、ハリーはうなずいている。しかし「死の秘宝」に出てくるリリーの手紙によれば、ハリーは1歳の時におもちゃのほうきに乗って遊んでいた。床上数十センチしか浮かないほうきではあるが、この時に体のバランスの取り方を習得したのじゃないだろうか。本人は忘れていても体が覚えていた、とわたしは思う。

飛行訓練の授業の時にネビルの玉を取り返そうとしたハリーには共感できる。しかしそのあと、真夜中の決闘に応じたハリーには不快感を覚える。しかも「マルフォイを一対一でやっつけるチャンスだ」と、自分が負ける可能性を考えていない。何ともごうまんな態度だ。ロンもハリーも、軽はずみが過ぎる。
しかしこの軽はずみのおかげで三頭犬を目撃し、それがこの巻の冒険の始まりになるのだが。

この章の最後のハーマイオニーのせりふ:
「もしかしたらみんな殺されてたかもしれないのよ。もっと悪いことに、退学になったかもしれないのよ」
いかにもハーマイオニーらしくて、大好きだ。