ハリー・ポッターと謎のプリンス(第28章前半)

ダンブルドアが塔から落ちるのを確認したスネイプは、ドラコをうながしてすぐに出ていった。グレイバックとカロー兄妹が続いた。もうひとりの死喰い人がそのあとを追って出ていこうとしたとき、ハリーはとっさにペトリフィカス・トルタスの呪文をかけた。
ハリーにかけられた凍結呪文が解けて、体を動かせるようになっていたのだ。

体を動かせるようになったのはダンブルドアが死んだからだと、少しあとに書かれている。
魔法には、それをかけた術者が死ねば無効になるものと、術者の死後も効果が続くものとがあるようだ。
リリーが無意識にハリーにかけた護りは、当然ながらリリーの死後も有効だ。それに追加するかたちでダンブルドアがかけた魔法も、ダンブルドアが死んだあと効果が続いていた。忠誠の魔法の場合は、守人が死んだら、生前秘密をうちあけられていた者たちが共同で守人の役を引き継ぐ。
浮遊呪文、凍結呪文、変身呪文などは、術者が死んだら単純に効果が終わるのだろう。

ハリーは階段を駆け下りた。
下ではおおぜいが戦っていた。中にロン、ジニー、マクゴナガル先生、ルーピン、トンクスがいた。ネビルは戦い疲れて、床によりかかっていた。死喰い人側ではカロー兄妹、巨大なブロンドの魔法使い(ソーフィン・ロウルか?)がいた。ほかにもいたのだろうが、ハリーの目に入ったのはそれだけだった。ハリーはスネイプに追いつくことだけを考えて走った。
この描写の中に「肖像画の主たちは、悲鳴をあげて隣の絵に逃げ込んだ」とか「階段の真ん中あたりにある、消える一段を忘れずに飛び越し…」とか、本筋に関係のない細かい描写があるのがおもしろい。

物音で生徒たちが起きだしてきていた。
アーニー・マクミランが話しかけてきたが、ハリーはろくに返事をせず彼を突き飛ばして先へ進んだ。ハリーのこういう身勝手なふるまいにはよくイラッとするが、今回だけはしかたがないだろう。今日のハリーは、苦難続きの彼のこれまでの人生の中でも最悪の経験をしたと言える。ダンブルドアといっしょに命がけの冒険をし、初めてダンブルドアが苦しむ姿を見、あげくの果てに彼の死を目にしたのだから。

建物の外に出たスネイプとドラコ、ソーフィンは校門へ向かった。ハリーは全速力で走って追った。
ハグリッドが小屋から現れ、事情がわからないながらも死喰い人を止めようとしていた。ロウルがハグリッドを攻撃したが、巨人の血と丈夫な皮膚が跳ね返した。
インセンディオの呪文で、ハグリッドの小屋が燃えだした。ハグリッドは中にいる犬のファングを助けに戻ったようだ。

スネイプにあと二十メートルに迫ったとき、スネイプが振り向いた。
クルーシオ、インカーセラス、ステュービファイ、インペディメンタ… ハリーは次々と呪文を放つが、スネイプはハリーが言い終わらないうちに軽くかわしてしまう。とても互角に戦える実力ではないのだ。
突然、死ぬほどの痛みがハリーを襲った。ハリーはスネイプに攻撃されたと思ったが、呪文を唱えたのは他の死喰い人で、スネイプに「やめろ!」と止められた。
「ポッターは、闇の帝王のものだ……手出しをするな!」このせりふは、表向きはヴォルデモートの忠実な手下、本心はリリーの遺志を継いでハリーを守っているというスネイプの立場を象徴している。

カロー兄妹とソウルが校門を出ると、ハリーはセクタムセンプラの呪いをスネイプにあびせようとした。当然、すぐにかわされた。そして、ハリーは驚愕の事実を知る。「そういう呪文の数々を考えだしたのは、この我輩だ……我輩こそ、『純血のプリンス』だ!」

そこへバックビークが現れ、スネイプに襲いかかった。スネイプは校門の外へ逃れ、姿くらましをした。
バックビークは自分の意思で、命の恩人のハリーを助けようとしたのだろうか? それともハグリッドが頼んだのだろうか?

数ページ戻るが、スネイプのせりふに「おまえの父親は、四対一でなければ、決して我輩を攻撃しなかったものだ」とある。
これは本当だろう。スネイプがわざわざウソを言う必要もないから。
ただ、四対一でなければスネイプを攻撃しなかったのは、ジェームズが臆病だったという理由ではないと思う。スネイプいじめはジェームズにとって、仲間といっしょに楽しむゲームで、見物人がいなければつまらないものだった。見物人が多ければ多いほど、スネイプを辱めるのが楽しかったのだ。
ジェームズはそういう少年だったと、わたしは想像している。