ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団(第24章前半)

章の最初に「クリーチャーが屋根裏部屋に潜んでいたことは、あとでわかった」と書かれている。
実際にはマルフォイ邸に行っていたのだが、屋根裏部屋でブラック家の形見の品を探していたのだろうとシリウスは言った。
シリウスはこの筋書きで満足していたが、ハリーは落ち着かなかった」と書かれているのがおもしろい。ハリーはどちらかというと単純な人間だけれど、シリウスはそのハリーよりさらに単純で、過去のできごとから何も学んでいないのがわかる。
そして、休暇の終わりが近づいてくるにつれ、シリウスは露骨に不機嫌になっていく。おとななら、そしてハリーの保護者を自認しているなら、いくら内心に不満があっても自制するべきだろう。

クリスマス休暇最後の日には、一挙にいろいろなことが起こった。
ハリーとロンがチェスをしていると(このチェスの描写がおもしろい。駒どうしが格闘するのだ)モリーがハリーを呼びに来た。台所でスネイプ先生が待っているというのだ。
ハリーが「スネイプ?」と呼び捨てにすると、モリーは「スネイプ先生ですよ」とたしなめた。ダンブルドアがハリーのスネイプ呼び捨てをたしなめる場面は何度かあった気がする。ダンブルドアはスネイプの真意を知っているから当然だが、モリーも教師には敬意を払うべきと思っているのだろう。

台所のドアを開けると、そこにはスネイプだけでなくシリウスもいた。
シリウスとスネイプは、お互いに皮肉をぶつけ合うが、シリウスの方が分が悪いという印象を受ける。
スネイプの用件は、明日から始まる学期にハリーが閉心術を学ぶようダンブルドアから指示がでていることだった。そして、教えるのはスネイプだということも。
スネイプとハリーの相性の悪さは、ダンブルドアとしても承知だったに違いない。しかし、ほかに適任者がいなかったのだろう。「世に知られていない分野の魔法だが、非常に役に立つ」とスネイプが言っているから、あまり一般的な魔法ではないのだろう。
役にたつのは確かだ。スネイプが二重スパイでいられるのは、閉心術の達人なればこそだ。そして、ダンブルドアもスネイプも、ハリーの心とヴォルデモートの心がつながっていることの危険性を十分認識している。

シリウスとスネイプがまた皮肉の応酬を始め、お互いに相手に杖を向けた。
「お互いに」と書いたが、先に杖を取り出して相手に迫ったのはシリウスの方だ。スネイプもすぐに杖を取り出し、シリウスに向けた。
ここでスネイプが、「犬と言えば(中略)ルシウス・マルフォイが君に気づいたことを知っているかね?」と言っているが、スネイプは誰からこのことを聞いたのだろう。ハリーはドラコのせりふから推測したが。
ムーディあたりがルシウスの態度から察してダンブルドアに報告したのかもしれない。そもそも、シリウスが大きい黒犬の姿になることは、ピーターからヴォルデモートに伝わっているはずだ。駅でうろうろしていた黒犬が、死喰い人たちの注意をひかないはずがない。

スネイプのことばに逆上したシリウスがスネイプを攻撃しようとしたまさにその時、タイミングよく台所のドアが開き、アーサーを囲んでモリー、ロン、双子、ジニー、それにハーマイオニーが台所に入ってきた。アーサーの傷が治って退院してきたのだ。

翌日、みんなはナイトバスでホグワーツへ行くことになった。トンクスとルーピンが護衛についた。
出発前、シリウスはこっそりハリーに何かの包みを渡した。「スネイプが君を困らせるようなことがあったら、わたしに知らせる手段だ」と。
それが何かわからないまま、ハリーは「絶対に使わない」と自分に言い聞かせた。たとえ自分がひどい目にあっても、シリウスを安全な場所から誘い出すようなことはしない。これが「両面鏡」と言われる魔法道具だったことは、38章でわかる。テレビ電話のような機能をもつ鏡だった。
これを使うまいというハリーの決心は、この場では間違っていなかった。
しかしこの道具の記憶を封印しすぎて、肝心の時に存在を思い出せなかったことが、32章からあとのハリーたちの冒険につながってくる。
ハリーがシリウスからこの鏡を渡されたことを、もしハーマイオニーが知っていたら、彼女は適切な助言ができただろうし、シリウスが死ぬこともなかったはずだが…

バスがホグワーツに着いて、ルーピンと別れの握手をしたとき、ルーピンが言った。
「君がスネイプを嫌っているのは知っている。だが、あの人は優秀な『閉心術士』だ。それに、わたしたち全員が--シリウスも含めて--君が身を守る術を学んでほしいと思っている。だから、がんばるんだ。いいね?」
やっぱりルーピンは、騎士団の中でいちばんの良識派だ。スネイプとシリウスの確執も、ハリーの迷いも知った上で、そういう条件の中でもがんばれと励ましている。ハリーとヴォルデモートの心の結びつきは、ハリーが努力しない限り、他人が断ち切ることはできないのだから。
わたしが好きなルーピンのせりふはたくさんあるが、このせりふも大好きだ。